バンダイナムコアミューズメント新設のDX部が目指す、デジタルと店舗の強みを融合した新しい顧客体験
本コンテンツは、2022年8月1日にMarkezineに掲載済みの記事の転載となります。
岡田 果子[著] / 関口 達朗[写] / MarkeZine編集部[編]
アミューズメント業界においても、消費者の変化に合わせてデジタルと店舗の強みをかけあわせたOMOの取り組みが盛り上がってきた。バンダイナムコアミューズメントは「Human Connection」をミッションに掲げる統合型カスタマーエンゲージメントプラットフォームのBrazeを導入することで、オンラインとオフラインの境にこだわらず、リアルタイムのデータから新しい顧客体験を提供しようとしている。同社が持つ顧客体験への考え方や理念について、プロジェクトを牽引する4名に伺った。
バンダイナムコアミューズメントの目指す顧客体験とは?
MarkeZine編集部(以下、MZ):皆さんが担っているミッションと、Brazeの活用における役割を伺えますか?
松本:現在は、DXの推進とマーケティングの全般を同分野のスペシャリストとして牽引しています。Brazeに関しては、高原からの提案を受けて最終の承認をした立場です。
高原:DX部のデジタルビジネス推進課に所属し、デジタルを活用したビジネス課題の解決・改善を行っています。Brazeの導入の提案と、Brazeと他のサービスをどうつなげるかといった運用設計の上流部分を担当しています。
髙橋:DX部のOMO推進2課という部署で、キャラクターのコラボイベントやガシャポンの事業におけるOMO推進を担っています。その名の通りECだけではなく、リアルな店舗とデジタルの連携をミッションとする部署です。実務としては「ナムコパークス オンラインストア」というECサイトの運営も行っています。
清川:高橋と同じく「ナムコパークス オンラインストア」の運営に携わっており、その会員様向けのメールマガジンにおいてBrazeを活用しています。別の部署の担当にはなりますが、Brazeはオンラインクレーン事業の「とるモ」においても活用されています。
MZ:皆さんが所属されているDX部は、どういったミッションを担う部署なのですか?
松本:2022年に新設された部署で、主要なミッションにOMOを推進していくことがあります。スマホでの常時接続が当たり前となり、顧客へ真摯に向き合うためにもOMOを実現しなければならないと数年前から計画していました。さらにコロナ禍で、リアル施設事業のリスクが浮き彫りになったことで、OMOの推進が本格化しました。我々は長年リアル店舗で事業を展開してきたので、なかなかデジタルが浸透しづらい土壌があります。そこを変えていくためにもDX部として組織化された背景があります。
MZ:DX部、ひいては御社が目指している顧客体験や価値提供はどういったものでしょうか?
松本:流通と接点の2つを変革したいと考えています。施設事業だとどうしても時間や場所の制約がありますが、その枠を取り払い、「いつでも」「どこでも」お客様の要望すべてに対応していくことで、柔軟にサービスを流通させていきたいです。
もう一つ、これまではリアル店舗の接客がお客様との一番の接点でしたが、これからはデジタルも活用して、店舗で味わえるような接客体験をデジタル上でも高頻度に提供したいと考えています。単に頻度を増すだけでは「面倒くさい」と思われかねないので、そこはBrazeを活用して適切にしていきたいですね。
Brazeを活用し、デジタルでの接客力向上を目指す
MZ:目指したい顧客体験がある一方、課題もあるかと思います。Braze導入に至った背景は何でしょうか?
高原:2年ほど前からCDPを活用して、データ取得・分析を通してお客様を理解する取り組みは行っていました。しかし、その先の利活用の部分が十分ではなく、活用範囲を広げるためにも、新たな試みとして2021年の12月にBrazeを導入しました。
松本:お客様へのアプローチに関するDXは慎重に進めてきました。我々はリアル店舗の事業がメインです。顧客への提供価値のひとつは接客であり、一つひとつのコミュニケーションなんです。対面であれば得意なのですが、メールやプッシュ通知などのデジタルになると、ノウハウの蓄積が少ないため、途端に苦手意識が出てしまいます。そこを克服する、いわゆるデジタルの接客力を上げるツールとしてBrazeに期待しています。
高原:もちろん、お客様へのデジタルのコミュニケーション手段として、Braze以前にも様々なツールを導入していました。しかし事業によってツールが異なり、機能にもばらつきがありました。データを1ヵ所に集約することも重要ですが、アウトプットのツールも一本化したいという思いもありました。
その点で、Brazeはオムニチャネルに対応している上、顧客のエンゲージメントを高める接客的な範囲もカバーしています。既に利用していたツールとの親和性も高かったので、顧客とのコミュニケーションツールはBrazeに一本化することを提案しました。
オンライン・オフラインの部署が合流
MZ:生活者がオンラインとオフラインの境目を気にせず、モーメントに合った体験を求めるようになっています。御社では具体的に、どういった取り組みを進めているのでしょうか。
髙橋:これまではオンラインの事業とオフラインの事業が別々の部署で動いていました。そのため、サービスを利用されているお客様も、まったく別の人であるという感覚で、目標も予算も別々でした。しかし、実は同じお客様がリアルとデジタルを両方利用することもあるということに気づき、今は組織を再編して一つの事業組織の中にオンラインとオフラインを考えるチームが両方含まれています。
そして、横断的なお客様のニーズをしっかり理解するために、Brazeを活用して行動を可視化しています。今はまだデジタル領域での活用にとどまっているので、今後はオフラインでの顧客行動も見ながらトータルの顧客体験設計をしていきたいです。
MZ:可視化されたデータを基に、オンラインとオフラインを横断したジャーニーを作っていく段階なのですね。現段階では、Brazeの活用はどのようにされていますか。
清川:「ナムコパークス オンラインストア」会員向けのメールマガジンの配信に活用しています。
お客様の興味関心や利用ニーズを考えた際、ゲームセンターのお客様は、家族や友人、個人で楽しく時間を過ごしたいという気持ちから利用されることも多いです。一方、キャラクターとのコラボ商品を販売するオンラインストアを利用されるお客様は「好きなキャラクター・作品」という明確な関心事項をお持ちです。
そのため、継続的にサイトに来ていただきたくても、お客様が好きな作品やキャラクターの商品が販売されていなければ価値を提供できません。また、コラボイベントに来場いただいた場合も、次に同じ作品のイベントが開催されるのは半年後や1年後になることもあります。そういったお客様に向けたアプローチを最適化していくことが、私たちのチームの目指すところです。
以前から別のツールを使ってメルマガの配信は行っていましたが、Brazeを使うことでお客様の反応がより明確にわかるようになりました。
セグメントの最適化でメールの手動開封率が2倍に向上
MZ:具体的に、顧客の反応が良くなったケースはどのようなものがありますか?
清川:コラボイベントや商品の販売がスタートするIP名を件名の最初に持ってくると反応がいいですね。「何%割引」といった価格を目立たせることもできますが、ナムコパークスの会員様向けには、その方の興味のある作品やキャラクター名が目にとまることが大事だと考えています。
MZ:Brazeを活用する中で、セグメントが最適化されるなどの変化もありましたか。
高原:当社はIP(※)・キャラクター軸の事業が多いのですが、IP軸のセグメントは種類が多いので複雑になりがちです。しかし、Brazeを活用することで、お客様がどのキャラクターの商品を購入されたか、どの作品の商品ページを閲覧したかを可視化できています。ユーザーIDごとに興味の強度も含めてリスト化することで、個々のお客様に興味のあるIPを軸とした商品やイベントをご案内しています。また、販売終了間近にリマインドメールを配信するといった戦略的な施策が実施できていますね。
※IP:Intellectual Property の略で、キャラクターなどの知的財産のこと
MZ:最適化されたセグメントでメールを配信することで変化は見られたのでしょうか?
清川:全体メルマガが元々2~30%ほどの開封率なのに対して、パーソナライズしたメールの開封率は50~60%です。セグメントをかなり狭く絞り込んでいるため母数も関係していますが、開封率やコンバージョンはかなり高いです。
また、以前のツールだと自動開封と手動開封の区別がつかなかったのですが、Brazeでは分けて確認できるので助かっています。その結果を見て改善を重ねたことで、手動開封率が2倍に向上したのは嬉しかったですね。
高原:松本から「高頻度の接点」という顧客体験のビジョンがありましたが、やたらメールが届いてもお客様には敬遠されると思っていました。しかし、セグメントを絞ってお客様のためになる情報をお伝えできればエンゲージメントが非常に高くなるのだと、Brazeを活用して感じているところです。
直感的な操作で工数削減、内容の工夫に思考もシフト
MZ:実際にBrazeを利用する中で、使用感についてはいかがですか?
清川:直感的に操作できる点がいいと思います。作業時間の短縮にもつながっていますね。以前のツールだとHTMLを生成する必要があったり、少し技術的な知識やスキルが必要でしたが、Brazeに移行してからはデジタルに疎い社員も気軽に使ってメールの作成・配信ができています。メルマガ配信などの業務が属人的にならない点もBrazeの利点だと思います。
高原:最初のデータ連携の部分はある程度専門的な知識が必要なので、私が担当していますが、実際の活用においては高度な知識は必要なく運用が回っている様子ですね。
清川:以前の約半分の工程でメルマガ作成から配信まで実施できています。版権元様の確認に数日~数週間かかるため、以前は配信の1ヵ月前から準備する必要がありましたが、今は2週間ほどでよくなりました。作成自体の手間が減ったので、より内容を工夫する思考にシフトできていると思います。
今後、さらに進むバンダイナムコアミューズメントのDX
MZ:Brazeを活用して顧客体験を向上する中で、今後はどのような展開をお考えですか?
松本:Brazeを導入したことでお客様へのアプローチが簡単になった一方、セグメントの部分で、まだ担当者のセンスや感覚に頼っている部分があります。そこもツールを導入することで質を安定させていきたいですね。集めたデータを担当者が見て仮説を立て検証して、結果を見て次のアクションにつなげていくサイクルを1週間や数日に縮めていきたいです。
高原:現在、「とるモ」と「ナムコパークス」の会員IDが別になっていて、一方の事業ではAという作品が売れているのに、もう一方の事業ではその作品を展開できていないといった課題があります。今後は、デジタル領域においてお客様を事業別に捉えるのではなく、IP別に捉え直して顧客体験を作っていきたいと考えています。長期的には、オフラインとの統一も推進していきたいです。
髙橋:Brazeを導入したことで、顧客エンゲージメントやコンバージョンといった結果が明確になったので、企画や事業にフィードバックしていきたいですね。今はまだ、既にある企画をどう盛り上げるかに注力していますが、初期段階からデータを活用してお客様の視点を取り入れた企画を立案できれば、トータルの体験価値も高まると考えています。
また、キャラクターを軸にしたイベントは、版権元様から作品・ブランドをお借りしているものです。その作品やキャラクターのファンになってもらえるような仕組み作りを続けることで版権元様や作品に対しても価値を提供できればと思います。
清川:イベントや商品購入の体験においては、その時間・空間だけに目が行きがちですが、その前後のコミュニケーションも重要だと考えています。データを通じてお客様の反応を理解して、他の部署にもシェアすることで、顧客体験を向上するPDCAをもっと速く回していけたらと思います。
MZ:Brazeを活用して着々と顧客体験を変革されている様子がよくわかりました。ありがとうございました。