CASE STUDY


ヤマップがマーケティング施策のPDCAを回し、エリアに対応したパーソナライズを推進。顧客体験の改善と収益基盤の強化を実現
154% プレミアム会員登録者増

課題


オフライン環境でも利用できる登山地図GPSアプリ「YAMAP」を提供する同社は、早くから自社開発のMAツールによる情報発信に取り組んできました。しかし、ある程度、山が好きというセグメントは出来ていたため一括で配信を行っていましたが、その先のパーソナライズが難しく、結果としてバナーで表示画面が埋まってしまう状況が生じていました。「まずは送ってしまおう」という文化の改善およびユーザー体験の向上が喫緊の課題でした。

戦略


ビジネスサイドへのヒアリングを行う中、課題解決の道筋として浮かび上がったのは、施策の効果検証が簡単に行え、PDCAサイクルが回せる環境を整備することでした。そのためには、設定や管理の容易さや、ABテストなどが簡単に行えるMAツールが不可欠でした。自社開発の可能性や各社ツールを比較検討した上で選択したのはBrazeでした。

成果


BrazeのABテスト機能は、ビジネスサイドによる施策の効果検証に貢献。Brazeコンテンツカードは、メッセージ配信のパーソナライズに大きな役割を果たしています。また位置情報に基づく情報配信は、ふるさと納税など自治体と連携したサービスの進化に加え、より安全な登山のための情報発信にも貢献しています。

ヤマップの事業内容とサービスの特徴を教えてください。

当社は、2013年の創業以来、福岡県を拠点に、登山・アウトドアに関する事業を展開しています。特に、国内最大級の登山コミュニティを持つアプリ「YAMAP」を通じて、多くの登山愛好家の方々へサービスを提供しています。

YAMAPの概要

YAMAPの最大の特徴は、電波の届かない山の中でも、スマートフォンのGPS機能を使って現在地や登山ルートを確認できる、高精度な登山地図です。また、ユーザーは自身の登山記録を写真やコメントとともにアプリに記録でき、その数は累計3,300万件を超えています。これらの記録は、登山道の状況や周辺の情報収集に役立つだけでなく、登山コミュニティの活発化にも大きく貢献しています。


YAMAPは無料でサービスが利用できる点も大きな特徴です。サービスを支える収益基盤を教えてください。

当社グループのマネタイズは大きく4つあります。一つはルート外れ警告などを通してユーザーの安全登山をサポートする「YAMAPプレミアム」です。次が厳選した山道具を販売するECサイト「YAMAP STORE」。三つ目が山や自然を活用したコンテンツ開発・コンサルティングです。そして最後が2024年5月に設立された株式会社ヤマップネイチャランス損害保険による、損害保険事業です。

データサイエンティスト 松本 英高氏

山の遭難理由の約3割超は道迷いですが、次いで多いのが滑落・転倒・病気や体調不良です。背景にあるのが無理な登り方で、事故は疲労が蓄積する15時台に多く発生すると言われるのもこうした事情があります。ベンチャーである当社があえて保険という金融事業を手掛けるに至った背景には、各人の体力に見合った、ほどよい山の歩き方を提唱していきたいという思いがあります。

 YAMAPに蓄積される山中の行動データは、山を安全に楽しめるかどうかを知る上で大きな意味を持ちます。ヤマップグループのYAMAPアウトドア保険は山中の移動速度や登山道の難易度に基づく、保険商品のパーソナライズにも取り組みたいと思っています。自動車保険のように登山を安全に楽しむ方は保険料が割安になる仕組みを構築することで、安全な登山に誘導することができればと考えています。

Braze導入前のマーケティングの課題を教えてください。

 以前から当社では、独自開発した簡易的なMAツールによるマーケティング施策を実践していましたが、課題も少なくありませんでした。その一つが、複数のバナー表示でWebサイトやアプリのホーム画面が埋まってしまうという問題でした。その背景には、YAMAPユーザー層の多くが登山愛好家で占められてきたため、それ以上のセグメントが進まず、結果として「とりあえず送ってしまおう」という文化が一般化していて、裾野の広がりや多様化に適応する必要が出てきたことがあります。また当社は、「YAMAP MAGAZINE」という山に関するコンテンツを運営しているのですが、リーチできているのが一部のチャネルに留まることも課題の一つでした。同様にYAMAP STORE運営部門では、カゴ落ちやクロスセルといった一般的な施策ができていない、という課題に直面していました。

 これらの課題を解決する上でまず求められたのは、ビジネスゴールを設定してABテストを手軽に実践できる環境を実現することでした。またパーソナライズやカスタマージャーニーに合わせてアプリ内やプッシュ通知やメルマガといった各チャネルを跨いだ施策がスムーズに実現できることも重要なポイントでした。

Braze導入前と後の比較


今挙げられた課題の解決策として、Brazeを選択した理由を教えてください。

 MAツールとして評価が高い3製品を比較検討し、最終的にBrazeを選びましたが、その大きなポイントになったのは、キャンバスの柔軟性とABテストの容易さ、そして費用や制約の透明性の高さでした。また、以前から当社ではデータ分析プラットフォームのLookerを拡張してプッシュ通知を送る簡易的なMAの仕組みを運用してきましたが、その実績からもBrazeのコストは十分にペイできると推測できました。そのため導入の決断も極めてスムーズに進みました。

 実は当初、自社開発したMAツールの機能強化も選択肢の一つとしてありました。候補製品を比較検討する中で、各種設定のスムーズさ、ユーザーアクションに応じたレスポンスの迅速性、LINEをはじめとする新たなチャネルへの対応など、あらゆる面で専用製品には太刀打ちできないと判断しています。

Braze選定後、運用に向けた準備はどのように進めましたか?

 2022年12月に契約を結び、Braze SDKを使ってシステム開発を行い、翌年3月から本番運用を開始しました。ユーザー体験を第一に考えることが設立当初から文化として根付く当社の場合、ポップアップデザインなどもブランドイメージと合致させることが重要と考え、テストを繰り返したことが運用開始まで時間が掛かった理由です。

 最初に実施したのは、居住地近くで花の見頃を迎えた山を紹介する施策でした。次に行ったのはYAMAP STOREクーポンの表示です。当社では以前から、取得済みクーポンが確認できないという課題がありました。その解決のため、Braze コンテンツカードをアプリ内に表示させ、そこから利用可能クーポンが一覧できる画面に遷移する仕組みを構築すると共に、使用期限が近付いたクーポンを持つ方には、メールやアプリ内プッシュ通知を行う仕組みを構築しています。

YAMAP STOREクーポンの表示
YAMAP STOREクーポンおよびリマインドの表示

 Brazeコンテンツカードによるクーポン一覧化を単体で評価することは難しいのですが、Brazeキャンバスによるリマインド自動化と組み合わせることで、前年同月比発行クーポン使用率が約2倍に向上しています。

Brazeの運用は現在、どのような形で行っていますか?

 現在は社員の半数以上がBrazeアカウントを持ち、各事業部門の施策に応じ、Brazeでユーザーにメッセージを届ける環境が実現できています。ビジネスサイドの担当者によるマーケティング施策の起草が主ですが、プロダクトマネージャーが新機能の紹介や不具合の告知などの起草したり、地図エンジニアが通行止め情報といった地図にまつわる施策を起草するなど、様々なメンバーによる運用が行われています。そのため幅広い視点での実施判断をするためBraze Task Teamが実施の是非を判断し、大丈夫であれば、設計やバナーデザインなどの作業に移るという流れで対応しています。

Braze Task Teamのメンバーは7、8名。Brazeの運用を担当する我々データチームのほか、ビジネスサイドの担当者、ユーザー体験を考えるデザイナーなどで構成されています。企画書は、「こんな施策を実施してみたい」という担当者がフォーマットに沿って起草します。実施判断以降のワークフローも整備し、OKが出た時点で即座に実施に向けた取り組みが開始される体制が構築されています。

また当初からの課題であるメッセージの取捨選別についても、ABテスト活用のほか、コンバーションレートや売上額などの具体的な数字に基づくPDCAサイクルを通し、すでに一定の成果を挙げています。

Brazeの導入効果を具体的に教えてください。

 まず挙げられるのは、事業部門やチャネルを跨いだ施策が打てるようになった点です。一例が「プレミアム会員登録で3,000円分のYAMAP STOREクーポンを進呈」といった施策です。同施策は、前年同月比で154%のプレミアム会員登録者数の増加につながっています。

YAMAP STOREクーポンの表示

 アプリ内メッセージでのポップアップの有効活用も効果の一つです。当社はこれまでユーザー体験の分断化の懸念もありポップアップは利用していなかったのですが、セグメントに基づく表示は大きな成果につながっています。同時にクリック率の目標を20%と定め、それに満たないメッセージは中止するなどのルールをきめ細かく設定することで、ユーザー体験の品質維持も心掛けています。

また登山では、命にも関わる重要情報が存在します。例えば2023年夏は猛暑の中、北アルプスの水場が枯れるという事態が生じましたが、北アルプスの地図をダウンロードしたタイミングで注意喚起が行えることもアプリ内メッセージの効果の一つです。売上には直結しませんが、開発の手をかけずにこうした注意喚起も即座に行えるようになったことは大きな意味を持つと考えています。

 BrazeはGPS位置情報をトリガーにした情報発信も行えるため、特定の山に近づいたユーザーにプッシュ通知を送るような使い方も可能です。以前、六甲山の投稿キャンペーンを行った際に、六甲山に近づいたユーザーにプッシュ通知でキャンペーンを告知したことがありますが、こうした機能はYAMAPのサービスとはとても相性がいいと感じています。

アプリ内メッセージ(左)およびコンテンツカード(右)


 またプッシュ型の情報発信ではメッセージが届きにくかったユーザーに対し、アプリに組み込んだコンテンツカードを通し情報が発信できるようになった点も大きな成果です。こうした施策の多くは以前も可能でしたが、多くの場合、開発が必要になるため、思い立ったタイミングで実行するのは難しいのが実情でした。しかし現在は、ビジネス側の担当者が思い立ったタイミングで即座に実行できるようになっています。


今後Brazeをどのように活用していきたいと考えていますか?

PDCAサイクルを回し、ビジネスサイドでメッセージの取捨選択を行うという当初の目標が完全に達成できたとは考えていません。PDCAサイクルを回すためにデータチームが手助けをしている割合をもっと減らし、各事業部が自律的にBrazeを活用できる状態を目指します。

また、ユーザー体験を大きくアップデートする手段として注目しているのは、画面のパーソナライズがこれまで以上に簡単に行えるFeature Flagsの活用です。アプリに初めて触れた方と使い慣れた方では必要な情報はそれぞれ違いますが、Feature Flagsの機能を活用することで、それぞれに応じて画面を変えることも可能になります。特にアプリをダウンロードしたユーザーの定着化という課題においてFeature Flagsが果たす役割は極めて大きいのではないかと感じています。

従来のMAツール運用実績から考えると、Brazeのコストは十二分にペイするものでした。ならば一刻も早く導入すべきと判断しました。


松本 英高氏

データサイエンティスト 

YAMAPの成果

チャネルを跨いだ施策のスムーズな実現、アプリ内メッセージやコンテンツカードの効果的な活用、さらにはGPS情報と連携したサービスの強化を実現

2倍 発行クーポン使用率
154% プレミアム会員登録者増