新規・既存を問わず事業の成否を左右する要となるのが「事業戦略」です。円滑なビジネスの遂行には欠かせない要素といえます。
この記事では、事業戦略の意味や重要性、関連用語との違い、戦略の立て方や実行の流れをご紹介します。また、重視すべきポイントや注意点、便利なフレームワークも確認していきましょう。
1. 事業戦略とは
事業戦略とは、事業をビジネスとして成功させるために立案する企業の行動計画のことです。方向性の検討、市場の選択、収益モデルの考案、経営資源の分配、マーケティング戦略の立案といった多様な要素が含まれます。
「事業を成功に導くためにどう行動すべきか」という戦略全般を指すものだとイメージすると理解しやすいかもしれません。
2. 事業戦略の目的や重要性
事業戦略は事業の成功を目的とした計画そのものであり、円滑にビジネスを進めるためには必須ともいえます。その重要性を3つの観点からご紹介します。
1. 競合他社との差別化を図るため
事業戦略の立案では、マーケットの分析や競合他社との比較を行います。自社事業の強み・弱みはもちろん、市場のトレンドを把握しつつ商機を検討します。その過程は、自社ならではの魅力を見出すプロセスとも言い換えられます。
2. 事業価値を見極めることができる
多角的な視点から検討を行う事業戦略は、その事業が持つ価値の見極めに役立ちます。「オリジナリティや収益性はあるのか」「既存事業とのシナジーは」などの評価を進められます。
3. 資金・設備・人員などの活用や分配を判断するため
事業価値の適切な見極めは、会社の経営資源(資金・設備・人員など)を最適な形で分配することに繋がります。新規事業であれば「挑戦する価値があるのか」、既存事業であれば「さらなる投資と撤退のどちらが良いのか」を判断でき、限りあるリソースの無駄遣いを防げます。
3. 事業戦略に関連する用語との違い
事業戦略には混同しやすい関連用語がいくつか存在します。各用語の違いを見ていきましょう。
ただし、用語には境目が曖昧なものもあり、厳密な意味は企業や使い手によっても異なるため、文脈から理解することが大切です。
1. 経営理念
経営理念は、自社がどのような価値観を持ち、何を目指しているのかを示す思想です。果たすべきと考える社会的ミッションなどに言及するもので、自社の存在理由の説明とも言い換えられます。経営理念の先に経営戦略があり、その経営戦略のなかに企業戦略があります。
2. 経営戦略
経営戦略は、経営理念を達成するための自社の行動を定める、社内の戦略全般のことです。「企業戦略」「事業戦略」「機能別戦略」の3つの戦略からなり、事業戦略は企業戦略の一部、機能別戦略は事業戦略の一部となります。
3. 企業戦略
企業戦略は経営戦略の一部で、自社全体の方向性を検討するものです。経営理念を踏まえた経営ビジョン(企業として将来ありたい姿)の策定と、その社内への浸透、注力すべき事業の取捨選択、各事業への経営資源の分配などが含まれます。
企業戦略は複数の事業にまたがる全社的な計画であり、事業戦略はそのなかの、ある特定の事業のみに関する戦略となります。
4. 機能別戦略
機能別戦略は事業戦略の一部で、各部門やチームの動きが含まれます。次の営業戦略やマーケティング戦略、生産や物流にまつわる計画立案など、事業戦略を実行するための具体的なプロセスを決定するものです。
5. 営業戦略
営業戦略は機能別戦略の一部で、事業の収益を確保しビジネスとして成立させるための計画です。社内体制ごとに担当範囲は異なりますが、市場選定やプロダクトの価格設定、カスタマージャーニーの作成などが含まれます。
6. 事業計画
事業計画は、今後数年間に関する事業戦略の全体像をまとめたものです。事業戦略とほとんど同一視される用語ですが、企業の資金調達時には「事業計画書」の提出を求められるケースが多く、そのようなシーンでは事業戦略よりも一般的な表現として使われています。
ここまで解説した事業戦略と関連用語との違いを表にまとめました。
用語 | 概要 |
経営理念 |
|
経営戦略 |
|
企業戦略 |
|
事業戦略 |
|
機能別戦略 |
|
営業戦略 |
|
事業計画 |
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4. 事業戦略に必要なフレームワーク
続いて、事業戦略の作成に活躍する代表的なフレームワークをご紹介します。
1. SMARTゴール
SMARTゴールは、5つの視点から実現可能性の高い目標を作り上げるフレームワークです。
Specific(具体性):曖昧さを避けて具体的な言葉で記述する
Measurable(計測可能性):客観的に計測できる数値を含む目標にする
Achievable(達成可能性):達成に必要なリソースがあるか確認する
Relevant(関連性):経営理念を反映しているか確認する
Time-based(期限):半年など明確な期限を定める
SMARTゴールは、イメージだけが先行して実際には機能しないような目標になることを防いでくれます。
2. SWOT分析
SWOT分析は、4つの要素から自社を取り巻く現状を明らかにするフレームワークです。社内外のプラス・マイナス要素を洗い出します。
Strength(自社の強み):内部のプラス要素(例:開発力の高さ)
Weakness(自社の弱み):内部のマイナス要素(例:資金不足)
Opportunity(機会):外部のプラス要素(例:市場トレンドと自社製品の方向性が合致、競合他社が撤退)
Threat(脅威):外部のマイナス要素(例:市場が狭まっている、大企業の参入)
3. STP分析
STP分析は、市場の選定や市場内での自社の立ち位置の決定に役立つフレームワークです。以下の3つのステップで構成されています。
1.セグメンテーション(Segmentation):市場の細分化・顧客のグループ化
2.ターゲティング(Targeting):自社が狙うべきセグメントの選定
3.ポジショニング(Positioning):競合を考慮した上での自社の立ち位置の決定
その詳細や根幹となる「セグメンテーション」については、以下で解説しております。
>>セグメンテーションとは?分類方法や重要な要素、活用事例について解説
4. PEST分析
PEST分析は、自社では手の打ちようがないような外部環境を深掘りするためのフレームワークです。以下の4つの要素で構成されています。
Politics(政治):政府の方針、法律による規制など
Economy(経済):為替の変動、インフレ・デフレなど
Society(社会):人口動態や宗教、人々のライフスタイルの変動など
Technology(技術):革新的な新技術・特許の登場など
外部環境の分析に特化しており、前述のSWOT分析の「O(機会)」や「T(脅威)」を深掘りするものとして併用できます。
5. 3C分析
3C分析は、3つの視点から大まかな現状把握を進めるフレームワークです。
Company(自社):強み・弱み、企業理念、経営リソースなど
Customer(顧客・市場):顧客ニーズ、市場のトレンドなど
Competitor(競合):競合の強み・弱み、新規参入の脅威度など
概要の把握に重宝するもので、詳細の深掘りはPEST分析などに回される形が主流です。
6. 4C分析
4C分析は、顧客視点でプロダクトの魅力を分析するフレームワークです。以下の4つのCを用います。
Customer Value(顧客価値):顧客が製品に抱いている価値
Cost(顧客コスト):顧客が製品の利用に支払う費用
Convenience(利便性):顧客が製品を利用するうえでの快適さ(例:スムーズな決済システムの有無)
Communication(コミュニケーション):顧客とやり取りできる手段の充実度(例:メルマガ、SNS、チャットボット)
7. ファイブフォース分析
ファイブフォース分析は、業界(市場)の分析に重宝するフレームワークです。以下の5つの要素を脅威として見極めます。
既存競合企業:すでに発生している業界内での競争
新規参入企業:新規参入の容易さ、可能性
代替品:業界外で変わりとなる製品・サービスの存在(例:カフェ業界から見たコンビニ業界のコーヒー販売)
売り手の交渉力:自社に原材料を卸す業者との力関係(例:ほかのサプライヤーで換えが効くのか)
買い手の交渉力:自社の製品を購買する顧客との力関係(例:供給過多で極端な買い手市場になっていないか)
5. 事業戦略の立て方や実行までの流れ
では、事業戦略の立て方と実行までの流れを見ていきましょう。
1. 事業目標や達成後のビジョンを明確にする
まず行うべきは、事業の目的や達成後にありたい姿を明確にすることです。経営理念や企業戦略を受け、SMARTゴールなどのフレームワークを用いて、実現可能な目標を設定しましょう。
2. 自社の現状分析を行う
目標と達成後のビジョンを明確化した後は、自社の現状を見直します。SWOT分析などを取り入れながら、足りていない部分と強みにできる要素を洗い出していきましょう。
3. 事業の方向性の検討・複数の戦略を策定する
現状分析の次は、事業の方向性や具体的な戦略を検討します。競合との比較も踏まえつつ、自社の目指すべきポジションを見つけ、そこに向けて機能別戦略を検討していきましょう。次の見極めに備えて複数の戦略を策定しておけると効果的です。
4. 実現可能な戦略を見極める
事業戦略はただ作成するだけでなく、それが実現可能なものであるかを評価する必要があります。少なくとも以下の視点から実現の可能性を探りましょう。
資金的制約
人材的制約
技術・設備的制約
時間的制約
法的制約
倫理的制約
5. 決定した施策を実行する
実現可能性があると見込めた後は、いよいよ戦略の肝となる施策の実行へ移ります。施策の実行時には、事業戦略の軌道を修正できるよう、効果の測定と分析を行うことも重要です。必要に応じて統計チームを用意するなど、社内体制を整えておきましょう。
6. 事業戦略を立てる際のポイントや注意点
最後に、事業戦略を立てる際に知っておきたいポイントと注意点をご紹介します。
1. 社内リソースをあらかじめ把握しておく
事業戦略は実行前に実現可能性を評価しますが、その評価には社内のリソース(資金、人員、設備など)の視点も含まれます。机上の空論となる戦略の立案を減らすためにも、早期に社内リソースを把握しておきましょう。
2. 実行して終わりではなく分析と改善を繰り返す
立案時には優れた事業戦略であっても、市場のトレンドや競合の状況が変動すれば時代遅れとなります。継続的な効果の測定・分析を行い、必要に応じて改善を繰り返すことが大切です。
3. フレームワークの向き不向きを把握する
フレームワークにはそれぞれ向き・不向きがあります。例えば、4C分析と3C分析は名称が似ていますが、前者は顧客視点、後者は社内外の現状分析と、方向性が異なります。適切なフレームワークの選定は事業戦略立案の第一歩となるものです。
7. まとめ
事業戦略は、ある事業をビジネスとして成功させるための計画全般のことであり、新規・既存を問わず、事業運営時には必ず作成しておきたいものです。
事業戦略の作成にあたっては、フレームワークの活用が有効です。ご紹介した作成の流れと注意点も参考に、自社ならではの事業戦略を作り上げましょう。