CX=顧客体験の向上は、売上だけではなく顧客満足度や顧客ロイヤリティを高めることに繋がります。
この記事では、現代のマーケティングで重要な「CX」の詳細と関連用語との違いから、重要性とメリット、向上のポイントや流れ、成功事例をご紹介します。
1. CX(カスタマーエクスペリエンス)とは
CX(Customer Experience:カスタマーエクスペリエンス)とは、「顧客体験」や「顧客体験価値」と訳されるマーケティング用語です。ある商品・サービスの直接的な価値(例:性能の良さ、機能の充実度)のみならず、その出会いから購入後のアフターフォローまでの過程で得られる「顧客体験」に着目する思想を指します。
例えば、注文のしやすさ・発送の迅速さ・お問い合わせの容易さなど、目には見えにくい感情的な価値が優れていることを「CXが優れている」といいます。
2. CXが重要視される背景
昨今、CXが重要視される背景には、大きく4つのビジネス環境の変化があります。
2.1 サービスや商品の差別化が難しくなってきている
近年、自社のサービスや商品を他社と差別化し続けることが困難になりつつあります。グローバルビジネスの拡大や技術の進化により、優れた商品を世に出しても、すぐに安価な後発品が追随するようになったためです。従来のように製品の質の良さだけで競争力を保つのは難しく、CXによる感情的な価値を高める重要性が増しています。
2.2 価値観やライフスタイルが多様化している
インターネットやSNSの浸透により、顧客自身が簡単に情報を取りにいくことが可能になり、消費者の価値観やライフスタイルの多様化が進んでいます。一人ひとりが独自の感性を持つなか、従来の最大公約数的なマーケティング施策では効果を期待しにくくなりました。個人の顧客体験も分析するCXに取り組むことは、その打開策を見つける近道となります。
2.3 顧客接点が複雑化している
顧客自身が簡単に情報を収集できるようになったことで、顧客接点はより複雑化しています。最近では、折り込みチラシやテレビCMなど企業側が提供するタッチポイント以外にも、SNSの口コミや動画サイトなどから自社を知る方も増えています。顧客体験を追求するCXを高める過程では、このような自社が見落としているかもしれない顧客接点の洗い出しができます。
2.4 ビッグデータの活用が容易になったため
「商品の質に加えて顧客体験も大切にしよう」という考えは目新しいものではなく、実際にCXという用語は2000年ごろには登場していました。
今あらためて注目されているのは、GPUなどのハードウェアの進化やAIの登場により、ビッグデータの活用が容易になったためです。コスト面からも技術面からもハードルが下がるなか、データドリブンなCXを成功させやすい環境が整いはじめています。
3. CSやUI/UX・DCXとの違い
CXにはCS・UI・UX・DCXなど語感の似た用語が存在します。混同を避けるために、それぞれの違いを理解しておきましょう。
3.1 CS(カスタマーサティスファクション)との違い
CS(Customer Satisfaction:カスタマーサティスファクション)とは、いわゆる顧客満足度のことです。特に、商品やサービスに関する満足度アンケートの結果など、数値データとして集計したものを指します。
CSはCXの現状を図るための指標として役立ちます。顧客体験という目に見えないものの質を数値化し把握するのに活用できる道具がCSです。
3.2 UI(ユーザインターフェース)との違い
UI(User Interface:ユーザインターフェース)は、製品やサービスの利用時に触れる機器(例:キーボード)や画面デザインなどを指します。
UIが優れていると、製品の利用にまつわる顧客体験は「扱いやすい」「気持ちが良い」とポジティブになります。すなわち、UIはCXの一部であり、CXを高めるための具体的な手段です。
3.3 UX(ユーザエクスペリエンス)との違い
UX(User Experience:ユーザエクスペリエンス)とは、製品やサービスの利用で得られる体験を意味します。
CXと似ていますが、CXには製品の購入前や購入後の体験も含む一方、UXは製品の利用時のみの体験を指しています。つまり、UXはCXの一部にあたります。
3.4 DCX(デジタルカスタマーエクスペリエンス)との違い
DCX(Digial Customer Experience:デジタルカスタマーエクスペリエンス)は、デジタル領域における顧客体験を意味しています。CXのデジタル版だから「D(Digial)CX」です。したがって、DCXもCXに内包される概念といえます。
ここまでのCX・CS・UI・UX・DCXの違いをまとめると、以下の通りです。
用語 | 特徴 |
CX (Customer Experience) | カスタマーエクスペリエンス(顧客体験価値) ある製品との出会いから購入後のアフターフォローまでの過程で得られる顧客体験全般 |
CS (Customer Satisfaction) | カスタマーサティスファクション(顧客満足度) 特にアンケート結果などを数値化したデータを指す CXを測るための道具 |
UI (User Interface) | ユーザインターフェース 製品やサービスの利用時に触れる機器(例:キーボード)や画面デザインなどのこと 優れたUX(ひいてはCX)を生み出すための道具 |
UX (User Experience) | ユーザエクスペリエンス 製品やサービスの利用で得られる体験 CXの一部(製品利用時のみの体験) |
DCX (Digial Customer Experience) | デジタルカスタマーエクスペリエンス デジタル領域における顧客体験 CXの一部(デジタル版) |
4. CXが向上することで得られるメリット
では、CXが向上すると具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。
4.1 サービス・自社製品の認知拡大に繋がる
CXが向上すると、サービスや製品の認知度が拡大します。優れた顧客体験を提供し続けると、既存顧客が好意的な情報を発信するようになるためです。クチコミ効果による費用のかからない形での知名度の上昇と新規顧客の獲得が期待できます。
4.2 顧客満足・顧客ロイヤリティの向上が図れる
CXの向上により顧客満足度が高まれば、顧客ロイヤリティ(自社や製品・サービスに対して抱く愛着)の向上も見込めます。顧客ロイヤリティの向上は顧客の離脱の抑制や継続利用に繋がるものであり、製品・サービスのLTVの向上が期待できます。
4.3 リピーターの獲得に繋がる
満足度の高い顧客体験は、消費者にとって「また購入したい」というモチベーションに繋がります。つまり、CXの向上はリピーターやロイヤルカスタマーの育成に繋がるのです。リピーターやファンが育成できると盤石な売上基盤ができるため、収益の安定化にも繋がります。
4.4 競合他社との差別化ができる
CXの向上は競合他社との差別化を実現します。前述の通り、近年は後発品の速やかな登場などにより、単に優れた製品を販売するだけでは他社との差別化が難しくなっています。顧客体験にこだわり抜くことで、自社ならではの価値を生み出し、競合他社との違いを作れます。
4.5 ブランドイメージの向上に繋がる
競合他社とは一味違う顧客体験の提供は、ブランドイメージ全般を向上させます。「○○を販売しているブランド」といった信頼を獲得でき、ほかの製品を販売する際にもそのイメージは有効に働くでしょう。CXの向上は、一つの製品のみならず、自社のビジネス全般を好転させる可能性を秘めています。
5. CX向上に重要なOMOとは
CXを向上させるための重要な要素となるのが「OMOマーケティング」です。その意味や注目される背景、メリットや注意点を押さえておきましょう。
5.1 OMOマーケティングとは
OMOとは、「Online Merges with Offline(オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン)」を略したもので、「オンラインとオフラインの統合」を意味します。顧客が店頭やオンラインショップ、Webサイトなどのチャネルの違いを意識せず、スムーズでシームレスな利用を実現することで、顧客体験の向上を目指すものです。このOMOを重視したマーケティング施策のことを「OMOマーケティング」と呼びます。
OMOの詳細はこちらの記事でも解説しています。
>>OMOの意味とは?オムニチャネルとの違いやメリット、導入事例について紹介
5.2 OMOマーケティングが注目される背景や重要性
OMOが注目される背景には、スマートフォンの普及が大きく関係しています。スマートフォンの普及により、消費者はチャネルを意識せずに行動できるようになりました。実店舗のようなオフラインの環境でもオンラインから口コミやレビューを確認したり、オンラインショップでも実店舗で受けるような質の高い接客を求めたりと、両者の垣根は曖昧になりつつあります。
OMOに対応すると、オンラインの場であれオフラインの場であれ、すべてのチャネルで顧客ごとにパーソナライズされた体験を提供できます。顧客が「これは自分のためのサービスだ」と感じやすくなり、CXの向上に繋がります。
5.3 OMOマーケティングのメリットや注意点
OMOマーケティングのメリットは、オンラインとオフラインの境界を感じさせない消費環境を実現することで顧客目線に近いサービスを提供することにあります。シームレスなブランド体験はCXの向上に繋がります。
OMOマーケティングで注意したいのは、効果が出るまでに時間を要する点です。どのようにチャネルを連携させるのかの検討や、適切なツールの検討と導入、施策の実践と改善の繰り返しが必要であり、いち早く動き出すことが求められています。
6. CXを可視化するための指標
ここでは、顧客体験という目に見えにくい概念であるCXを可視化するための指標をご紹介します。
6.1 NPS®
NPS ®(ネット・プロモーター・スコア)は、顧客ロイヤルティを測るためによく利用される指標です。「ある企業や製品について、知人や友人にどの程度勧めたいか?」を11段階の数値で回答してもらうアンケートで、調査と分析の手軽さから浸透しています。詳細は以下の記事で解説しています。
>>NPS®(ネット・プロモーター・スコア)を活用するには-顧客満足度との違いやメリットも解説
6.2 LTV(ライフ タイム バリュー)
LTV(Life Time Value:ライフタイムバリュー)は、「ある顧客が自社との取引を開始してから終わるまでの間にどれだけの利益をもたらしてくれるか」を算出する指標です。
LTVは、自社との取引期間が長くなるほどに大きくなる傾向があり、CXへの取り組みの結果(顧客が各種体験に満足し、長期間の取引をしてくれているのか)を測定する指標にできます。具体的な計算方法や向上のポイントは以下の記事をご確認ください。
>>LTV(ライフタイムバリュー)とは?重要性や計算方法、高める方法・ポイントについても紹介
6.3 顧客満足度(CS)
前述の通り、CSはCXを測るための指標となります。顧客にアンケート形式で質問し、結果を分析すれば、顧客満足度という目に見えにくい概念を数値化できます。
顧客満足度を測るための具体的なアンケートには、「CSI(Customer Satisfaction Index)」や「JCSI(Japanese Customer Satisfaction Index)」などがあります。また、前述のNPS ®をCSを測るためのアンケートとするケースもあります。
6.4 eNPS
eNPSは、Employee Net Promoter Score(エンプロイーネットプロモータースコア)の略称で、顧客ではなく従業員がどれくらい自社・企業に対して愛着を持っているかを図る指標になります。
従業員の満足度が上がることで、商品・サービスの品質向上に繋がります。それが結果として、CX(顧客体験)の向上にも繋がるのです。
7. CXを向上させる施策の流れ
続いて、CXを向上させる施策の具体的な流れを4段階に分けてご紹介します。
7.1 カスタマージャーニーマップを作成する
最初の作業はカスタマージャーニーマップの作成です。カスタマージャーニーマップでは、誰が・いつ・どのような行動をし、どのような気持ちになって購入に至るかを検討します。その作り方や注意点は以下で解説しています。
>>顧客理解を深めるための「カスタマージャーニー」とは?作り方や注意点について紹介
7.2 分析・課題を可視化する
カスタマージャーニーマップを作ったら、次は実際に顧客データを分析して課題を可視化していきます。顧客の行動結果がカスタマージャーニーで想定した通りになっているかを検証し、結果通りでない場合は改善ポイントを検討します。
7.3 抽出した課題から仮説を立てる
課題が抽出できたら、解決すべき課題に仮説を立てていきます。課題の解決=CXの向上のために取るべき具体的な施策・アクションと共に、その進捗を図るKPIも検討しておきましょう。施策とKPIの設定後は、優先順位を決めて施策を実行していきます。
7.4 検証や改善を繰り返す
仮説を立てて施策を実行したら、検証や改善を何度も繰り返していきます。改善を繰り返して施策の効果を上げていくことはもちろん、成功要因を分析し、ほかの施策に反映していくことも重要です。成功した施策についても検証を行うことで、取り組みの質を効率よく磨き上げていけます。
8. CXを向上させるポイント
CXを向上させるには、しっかり押さえておくべきポイントがいくつかあります。そのポイントを4つご紹介します。
8.1 顧客の目線や声に寄り添った工夫が必要
もっとも大切なのは、顧客の目線や声に寄り添う意識を忘れないことです。CX向上の取り組みは、顧客体験全般を改善していく試みです。「企業側が思う顧客の喜び」ではなく、実態を見つめてサポートやサービスを改善していく必要があります。
具体的な対策としては、全体の傾向を見出す定量調査(アンケート)を実施することに加え、より顧客の実態を把握しやすい定性調査(インタビュー)も並行して行うのがおすすめです。
8.2 自社にあったツールを活用する
顧客体験を向上させるためのCXツールは多種多様ですが、以下のようなツールが一般的です。
CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)ツール
MA(マーケティングオートメーション)ツール
Web解析ツール
Web接客ツール
レコメンドエンジン
CDP
プライベートDMP
どのツールを活用するかは、自社が達成すべき目的や実施する施策によって異なります。各ツールの特長やメリット・デメリットを把握したうえで、自社にあったツールを導入しましょう。
8.3 定期的にアップデートを行い見直す
現在は質の高い顧客体験を提供できていたとしても、顧客層やビジネス環境は絶えず変化しています。価値の高い顧客体験を提供し続けるためには、定期的なアップデートやPDCAサイクルによる見直しが重要です。
PDCAサイクルを回す際には、データ収集が要となります。現在のITツールによるデータ取得体制が十分かどうかも定期的に見直すと良いでしょう。
8.4 部署ごとではなく会社全体で対策する
顧客満足度は、会社全体による取り組みの結果として現れます。特定の部署だけではなく全社でCX向上に取り組むことが大事です。顧客中心の体験設計は、マーケティングだけではなく、社内システムを構築するITチームやECチーム、店頭チーム、お客さま窓口など、すべての部署が関わらなければ難しく、体験が途切れてしまうことになりかねません。
9. CX向上の成功事例
よりイメージをつかみやすくするために、ここではCX向上に成功した企業事例を2つご紹介します。
9.1 事例1
ある大手家具・インテリア販売店では、「商品の確認のしやすさ」と「購買のしやすさ」の2点をCXとして改善すべく、バーチャルショールームを提供しました。マウスを操作するだけで、利用者はまるで実際に店舗を訪れているかのように店舗内を動き回り、ウインドウショッピングを満喫できます。
閲覧中に気になった商品は、そのままオンラインショップで詳細を確認して購入も可能。新時代の顧客体験を生み出しています。
9.2 事例2
あるアパレル・ファッション系の会社では、すでに手元にある販売データをもとにCXの向上に取り組んでいます。
この会社では、ITツールを用いたデータ分析により、「(自社の)実店舗とオンラインショップの両方で購入する方は、実店舗のみで購入する方より約4倍もLTVが高い」という傾向を明らかにしました。そこで、これまで実店舗でしか購入していない顧客に向け、割引クーポン付きのメルマガを送付。特別な限定クーポンであることを強調し、便利なオンラインショップの利用を促す形で、LTV、ひいてはCXの向上に繋げています。
10. 顧客時代のCX向上を目指すなら「Braze」の導入検討を
成功事例でご紹介した通り、CXの向上にはITツールが活躍します。その候補には、Brazeもご検討ください。
10.1 機能紹介
Brazeはマーケターの業務を支援するITソリューションです。CXに向けた顧客データの分析とその後のアプローチに役立つ機能を包括的に搭載しています。
例えば、CXの第一歩となるカスタマージャーニーマップの作成も、「Brazeキャンバス」という機能を使えば簡単に作成できます。ユーザーの離脱率が高い(良い顧客体験を提供できていない=CXが低い)プロセスを検討しつつ、クロスチャネルなメッセージ機能を用いてフォローアップできます。
実際にBrazeを活用してCXの向上に成功したのが、次のPizza Hutの事例です。
10.2 導入事例
全世界1万8,000以上の店舗を展開するPizza Hutは、Brazeを活用したCXの向上により、収益を増加させました。
Pizza Hutは元々、EメールやSMSもマーケティングに活用する、クロスチャネルでの顧客コミュニケーションを意識できていた企業です。しかし、各コミュニケーションを一元的に把握する仕組みがなく、顧客体験が分断されてしまったり、社内でのデータ分析や運用に莫大な手間と時間をかけてしまったりと、スムーズには機能していませんでした。
しかし、Brazeの導入により、データを一元管理しつつ各種分析の時間を大幅に削減することに成功。カスタマージャーニーの構築やメッセージのパーソナライズ機能を駆使することで、数百種類のバリエーションを持つコミュニケーションメッセージを顧客に適切な形で届けられるようになりました。最終的に、標準的なメールを用いるアプローチと比較して収益は21%向上、利益は10%向上と大きな成果を手にしています。
本事例の詳細やBrazeの機能&デモ版に関するお問い合わせは、以下のリンクにお進みください。
11. まとめ
CXとは製品・サービスの利用時に留まらない顧客体験全般のことであり、その向上は新規顧客獲得や既存顧客との関係強化、ブランドイメージの上昇に繋がります。ぜひ、Brazeも活用しながら、CXを高める取り組みを進めてみてください。
また、カスタマーエンゲージメントの最新グローバルトレンドや、ビジネス課題に取り組むために役立つ組織作り、テクノロジー活用の最新事例などをまとめた書類として、「2024 グローバルカスタマーエンゲージメントレビュー」を用意しております。以下のリンクよりぜひご一読ください。