1. 顧客ロイヤルティとは
顧客ロイヤルティとは「自社や製品、サービスに対して顧客が抱く愛情や信頼」のことです。大きく「心理的ロイヤルティ」と「行動的ロイヤルティ」の2種類に分類されます。
顧客ロイヤルティの意味
前提として、顧客ロイヤルティが高いことは、顧客が自社や製品・サービスに好感を抱いていることを意味します。顧客ロイヤルティの高いユーザーは継続的な購入や良い口コミの拡散を行い、競合製品への乗り換えもしません。
元々、英単語のロイヤルティ(Loyalty)には「忠誠心」という意味があり、主従関係を前提にしたイメージも強いですが、ここでいう「ロイヤルティ」はより温かなニュアンスに近いものです。
心理的ロイヤルティ
心理的ロイヤルティとは、顧客ロイヤルティの「心」に関する部分で、顧客が自社や製品・サービスに抱く愛着や信頼の気持ちそのものを指します。単独ではイメージが難しいですが、次の行動的ロイヤルティとセットで捉えると理解しやすくなります。
行動的ロイヤルティ
行動的ロイヤルティとは、顧客ロイヤルティの「行動」に関する部分で、リピート購入や良い口コミの拡散といった具体的なアクションを指します。
「顧客ロイヤルティが高い」といっても、厳密には心理的・行動的ロイヤルティの高低により顧客行動には違いが見られます。
例えば、「心情的には応援しているが実際の購買は少ない」「愛着はそれほどないが購買は多い(例:ほかに良い製品が見つからない)」といった状態です。
一般的に、顧客ロイヤルティが高いといえば、心理的・行動的ロイヤルティのどちらも高い状態を指します。ロイヤルティに関する取り組みが上手に進まない時には、両者の違いまで意識してみると良いでしょう。
2. 顧客満足度(CS)やカスタマーエンゲージメントとの違い
顧客ロイヤルティと混同されやすい用語に「顧客満足度(CS)」と「カスタマーエンゲージメント」があります。それぞれ解説します。
顧客満足度(CS)との違い
顧客満足度(Customer Satisfaction)は、特定のサービスや商品に対しての満足度を示す指標です。
顧客ロイヤルティとの違いは、顧客満足度はある商品・サービスの指標であり、企業やブランド全体の評価ではないことです。顧客満足度が高い商品があっても、顧客ロイヤルティが比例して上がるとは限りません。
カスタマーエンゲージメントとの違い
カスタマーエンゲージメントは、顧客と企業の信頼関係に関する用語です。定義は諸説ありますが、Brazeでは「企業がお客様との直接的で意味のある関係を構築・維持するために行う一連の活動のこと」と定めています。
カスタマーエンゲージメントと顧客ロイヤルティとは似ていますが、主な調査対象が異なります。一般的に顧客ロイヤルティは、後述の「NPS®」などを用いた心の部分(心理的ロイヤルティ)の測定が優先されます。一方カスタマーエンゲージメントは、実際の顧客のアクション(行動的ロイヤルティ)を主なデータとして測定します。
詳細は以下の記事でも解説しています。
>>カスタマーエンゲージメントとは:重要性や向上ポイントについて解説
顧客ロイヤルティと関連用語の意味をあらためて以下の表にまとめました。
用語 | 特徴 |
顧客ロイヤルティ | 自社や製品、サービスに対して顧客が抱く愛情や信頼 |
心理的ロイヤルティ | 顧客ロイヤルティの「心」の部分。愛情や信頼そのもの |
行動的ロイヤルティ | 顧客ロイヤルティの「行動」の部分。リピート購入や良い口コミの拡散など具体的なアクション |
顧客満足度 | ある製品・サービスに対する満足度。顧客ロイヤルティは企業やブランドの評価を含む点で異なる |
カスタマーエンゲージメント | 企業がお客様との直接的で意味のある関係を構築・維持するために行う一連の活動のこと。顧客ロイヤルティとは主な調査対象が違う。 |
3. 顧客ロイヤルティはなぜ重要?
どれほど商品やサービスそのものに満足していても、サポート体制や購入プロセスに不満を感じてしまうと、顧客は継続的に商品を購入してくれません。そこで、一回の購買体験や使用経験だけではなく、長期的に信頼や愛着を持っているかを判断する「顧客ロイヤルティ」の概念が生まれました。
ロイヤルティが高い顧客が増加すると、企業はその顧客層からの継続的な購買による収益の安定化を見込めます。さらに、ロイヤルティが高い優良顧客は周囲に商品を勧めることも多く、優れた宣伝役にもなってくれます。
特にSNSが発達した近年では、企業の集客に積極的に貢献してくれる「ロイヤルカスタマー」の存在が重要視されており、あわせて顧客ロイヤルティを向上させる重要性も増しています。
4. 顧客ロイヤルティ向上のメリット
顧客ロイヤルティの向上により、企業はさまざまなメリットを得ることができます。ここでは具体的な4つのメリットについて解説します。
リピート顧客の増加
ロイヤルティが高い顧客を育成できると、商品の継続的な購入に繋げられます。例えば、顧客が日常的に使うものが壊れた場合、ロイヤルティが高い顧客であれば購入候補として自社商品を第一に想起してくれます。また、ECサイトの利用回数の向上やクロスセル、アップセルも期待できます。
解約率の低下
顧客ロイヤルティが向上すれば、サービスの継続利用が期待できると同時に解約率の低下に繋げることができます。これは、自社や製品に対する愛着から、競合サービスへの移行前に離れがたさを感じてもらえるためです。継続的な利用が収益を生み出すサブスクリプション型の月額サービスの場合、顧客ロイヤルティは特に重要な指標となります。
ブランドの認知拡大
ロイヤルティが高い顧客は自社の宣伝役として活躍し、ブランドの認知拡大に寄与します。SNSの普及やステルス・マーケティング問題の注目により、一般顧客のリアルな口コミやレビューの重要性は増しており、時に広告以上の効果をもたらします。
購入単価の向上
ロイヤルティを上げることは購入単価の向上にも繋がる可能性があります。例えば、口紅を購入した顧客が次は同じブランドのファンデーションを探してくれるなど、購買が購買を呼ぶ好循環が期待できます。そうして個人の購入単価が上がれば、自社全体の収益増加を見込むことができます。
5. 顧客ロイヤルティに必要な指標
ここでは、顧客ロイヤルティの測定や向上に必要な指標をご紹介します。
NPS®
NPS®は「Net Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)」の略で、ロイヤルティを図る代表的な指標です。「自社や商品を他者にどの程度推奨したいか」を0~10(数値が大きいほど勧めたい)の11段階で回答してもらうことで、顧客ロイヤルティを測定します。
NPS®はデータの収集も分析も手軽なのが魅力です。一方、単独では回答の理由までは測定できないため、「上記の数値を選択した理由は何ですか?」などと追加の設問を用意することをおすすめします。
LTV
LTVとは「Life Time Value(ライフタイムバリュー)」の略で、ある顧客がブランドや企業との取引・利用開始から終了までにもたらす価値のことです。サービスの利用期間や頻度、平均購買単価などから計算されます。行動的ロイヤルティを測定できる指標であり、心理的ロイヤルティに関しては別の指標で測る必要があります。
継続利用意向
継続利用意向は「今後も利用し続けたいか」を確認する指標です。NPS®や満足度と似ていますが、こちらは実際に利用を続ける意思があるかを問う点で実践的な質問といえます。というのも、自社製品のNPS®や満足度が高くとも、より魅力的な競合製品が存在して継続利用に繋がらないケースもあるためです。
満足度
前述の通り、顧客満足度はある商品やサービスに対する満足度のことです。自社やブランド全体の評価を含む顧客ロイヤルティとは異なりますが、満足度の積み上げがロイヤルティにもなり得るため重要な指標と考えられています。
NRS
NRSは「Net Repeater Score(ネット・リピーター・スコア)」の略で、継続利用に関する指標です。「1年後にこの製品の利用を継続してもらえますか?」などと質問し、1~5段階(数値が大きいほど積極的に継続したい)で回答してもらいます。NPS®と同じく手軽ですが、単独では回答の理由までは測れないといった点もNPS®と同じく注意が必要です。
CES
CESは「Customer Effort Score(カスタマー・エフォート・スコア)」の略で、自社製品・サービスの利用にどの程度の努力が必要かを測定する指標です。「製品はストレスや負担感なく利用できましたか?」などと尋ね、NRSやNPS®同様に数値段階(8段階や11段階が主流)で回答してもらいます。
CESは顧客ロイヤルティが高まらない原因を探るために役立ちます。例として、満足度は高いが顧客ロイヤルティは低い場合にCESを測定すれば、利用までのハードルに問題があるのではと確認できます。
DWB
DWBは「Definitely Would Buy(デフィニトリー・ウド・バイ)」の略で、ある製品をどの程度買いたいかを意味する指標です。通常は、「絶対に買いたい」から「まったく買いたくない」までの5段階で購買意欲を回答します。
DWBは商品開発(例:プロトタイプの評価)でよく使われる指標ですが、「絶対に買いたいを選択した人物の割合が多いほど顧客ロイヤルティが高い」と仮定して、顧客ロイヤルティの指標に活用されるケースがあります。ただし、ほかの指標と比較すると間接的であり、取扱いには注意が必要です。
6. 顧客ロイヤルティを向上させるためのポイント
では、顧客ロイヤルティを向上させるにはどういったことに取り組めば良いのでしょうか。具体的なポイントをご紹介します。
自社にあった指標を決める
前述の通り、顧客ロイヤルティの測定や向上に関する指標は数多く存在します。絶対的な正解となる指標はなく、それぞれの用途や注意点に応じた使い分け・併用が必要です。例えば、NPS®・NRS・LTVを同時に測定して、心理的・行動的ロイヤルティをどちらも把握するなどの工夫が求められます。
顧客接点・顧客体験を可視化する
顧客ロイヤルティの向上には、製品の質以外の顧客体験の改善が欠かせません。具体的な改善策の検討のためにカスタマージャーニーマップ(顧客の製品との出会いから利用の流れを旅に準えて可視化したもの)を作成するなど、顧客接点の可視化と把握を行いましょう。
優良顧客に対する施策を考える
自社や製品の顧客ロイヤルティを高める際には、優良顧客(購買頻度や金額の多い顧客)に注目するのがおすすめです。優良顧客には、顧客ロイヤルティが高いとは限らず、単に「代替品がないから」と仕方なく継続購入しているケースもあります。このような人々の顧客ロイヤルティを向上できれば、「ロイヤルカスタマー」への成長を促せます。
具体的な施策としては、購買金額に応じて特典を与えるなどのロイヤルティプログラムが有効です。詳細は以下の記事で解説しています。
>>ロイヤルティプログラムを成功させるには-種類やメリット・注意点についても徹底解説
ツールを用いたデータの比較・解析を継続して行う
顧客ロイヤルティを高める活動は何度も繰り返すことで意味を持ちます。データを活用しつつPDCAを回しながら継続し、マーケティング活動の精度を上げていくことが重要です。その過程でBrazeのようなマーケティングツールを活用すると、データの処理や施策の実施が容易になります。
7. 顧客ロイヤルティを向上させるための流れ
顧客ロイヤルティの向上を実現させるため、その手順もしっかり押さえておきましょう。
データ収集・指標の数値化
まずは、データの収集や指標の数値化が必要です。会員登録情報や購買履歴のような既存の顧客データを整理するのはもちろん、必要に応じてアンケートやインタビュー調査を行い、NPS®などの指標のデータも収集しましょう。前述のカスタマージャーニーマップの作成も有効です。
現状の把握・目標設定
次に、収集・分析したデータから現状を把握し、具体的な取り組みの目標を設定します。例えば、「半年後にNPS®の推奨者グループの割合を○○%増やす」「1年後にLTVを○○%向上させる」などと数値を用いたKPIを設定しましょう。
なお、ロイヤルティの評価は定量的な指標で測定しますが、理由はコメントで書いてもらうことも重要です。具体的にどのようなブランド体験や出来事があったかを把握できれば、次の施策の構築に繋がります。
施策の構築・実施
目標設定後は、その達成に必要な施策を構築していきます。鍵となるのは、前述のカスタマージャーニーマップと調査で得られた理由コメントです。例えば、配送に不安を感じる方が多ければ「注文確認メールにお届け予定日時・配送業者を明記する」、アフターフォローが問題であれば「購入の1週間後にお困りごとを尋ねるメールを自動送信する」など、顧客体験の改善に必要な施策を実行していきましょう。
課題や改善点の洗い出し
施策の実施後は効果を測定し、課題や改善点の洗い出しを行います。顧客ロイヤルティの向上には、商品やサービスの質だけではなく、あらゆる顧客体験が大切な要素となります。施策の実行と改善を繰り返し、取り組みをブラッシュアップさせていきましょう。
8. 顧客ロイヤルティの成功事例を紹介
最後に、顧客ロイヤルティに関する取り組みの成功事例をご紹介します。
成功事例1
世界最大規模のIT企業として知られるIBMは、その巨大さとシステムの細分化により、豊富に蓄積している顧客の行動データを活用する作業が複雑化していました。そこで、Brazeを導入し、顧客ロイヤルティに必要なデータを誰でも活用できるように調整。データ活用を進めながら顧客理解を深めつつ、メッセージングの充実を図りました。
結果、ライフサイクルに沿ったメール配信を行ったグループと行わなかったグループではコンバージョンに5倍もの差が生じることが実証され、年間経常収益(ARR)で80万ドルもの増収に成功しています。
>>US事例:Brazeを活用したライフサイクルメッセージ配信で、 コンバージョンを最大5倍にアップ
成功事例2
ある関東圏の野球球団運営会社は、ファンクラブからの収益向上を目指し、顧客ロイヤルティを高める取り組みを実践しました。
同球団は歴史こそ古いものの、他球団と比較してファンクラブの収益は少なく赤字であることが悩みでした。そこで、NPS®を用いて愛着や信頼という目に見ない概念を数値化し、CRMも導入してメールマーケティングを実施。「このランク(顧客ロイヤルティの高さ)の方々はこのような意見をいっている」と顧客ロイヤルティ別のファンの意見も受け入れながら施策を改善した結果、念願の黒字化に成功しています。
成功事例3
ある大手スナック菓子メーカーは、自社アプリを通じたロイヤルティプログラムを提供し、顧客ロイヤルティの向上を目指しています。
同社のポテトチップスには期間限定や数量限定のフレーバーが多く、欲しいと思ってお店に行っても買えないケースが頻発していました。そこで、顧客がアプリから近隣店舗の販売情報を調べられる機能を提供し、買えなかったことによる顧客のストレスを低減しています。
また、商品の袋を小さく折り畳んでアプリから撮影するとポイントが付与されるプログラムも提供し、「環境問題(ゴミの削減)にも取り組む企業だ」という好印象を与えることにも成功しています。
9. まとめ
顧客ロイヤルティとは、自社や製品・サービスに対して顧客が抱く信頼や愛着のことです。顧客ロイヤルティが高いユーザーを増やすと、収益の安定化やブランド認知度の向上といったメリットが得られます。
顧客ロイヤルティを高めるに当たっては、カスタマージャーニーマップを作成して顧客接点を洗い出すなどデータの活用が必要です。その具体的な手段として、ぜひBrazeの活用をご検討ください。