個人情報保護の重要性が指摘される今、データクリーンルームは企業が顧客データの利活用を継続するために知っておきたい用語です。
この記事では、データクリーンルームの仕組みや必要とされる背景、関連用語との違いや活用メリットなどをご紹介します。
1. データクリーンルームとは?仕組みについて
データクリーンルームとは、Googleなどのプラットフォーマーが提供する、個人のプライバシーに配慮する形で顧客や消費者のデータ分析が進められるクラウド環境のことです。
「データクリーンルーム」という名前のツールが存在するわけではなく、Googleの「Ads Data Hub」、Amazonの「AWS Clean Rooms」など、各プラットフォームがそれぞれのデータクリーンルームを提供しており、仕様も少しずつ異なります。
仕組みとしては、自社や関連企業が所有するデータをデータクリーンルームに接続し、プラットフォーム側が提供するデータと掛け合わせて分析します。各データは個人が特定できない形で利用され、ルームにアクセスできる人物の限定もできることから、ユーザーの個人情報を守りやすいのが特徴です。
2. データクリーンルームが必要とされる理由と背景
データクリーンルームが注目されている理由や背景には、プライバシー関連の法律の施行やCookie規制など、大きく3つの要素が挙げられます。
2.1. 消費者のプライバシー保護に関する法規制が進んでいる
2018年に登場したGDPR(EU一般データ保護規則)を皮切りに、ここ数年で人々のプライバシー保護に関する法規制が世界的に進んでいます。このような法律に違反する形で個人情報を取り扱うと、たとえ日本国内の企業であっても数十億円にも及ぶ罰金が科せられる可能性があります。
日本でも2022年4月に改正個人情報保護法が全面施行されたのは記憶に新しいところです。プライバシーに配慮されたデータクリーンルームの利用は、法規制への対応と個人情報の利活用の両立に役立ちます。
2.2. Cookieに依存しない広告手法が求められている
オンラインマーケティングの分野では、長きにわたってCookieを活用する手法が活躍してきました。しかし、世界的なプライバシー保護気運の高まりもあり、ブラウザベンダーはCookieを廃止する方向で動いています。
例えば、Chromeでお馴染みのGoogleは、2024年の半ばから段階的に3rd Party Cookie(複数のWebサイトを横断し個人を特定できるCookie)を廃止すると明言済みです。その点、データクリーンルームはその仕組みからCookieに依存しておらず、今から利用を進めることで近い将来への備えとできます。
なお、Cookieの詳細や規制の現状、その対策については以下の記事もあわせてご確認ください。
>>Cookie規制とは?起こる影響や対策・注意すべきことを解説
2.3. 「高度なデータ分析」のニーズが高まっている
政府によるDXの推進もあり、ビッグデータの利活用は企業がビジネス競争を生き残るための喫緊の課題となりつつあります。
データクリーンルームでは、大手プラットフォーマーが所有する莫大なデータを利用でき、自社単独では難しい大規模な情報活用も進められます。提供元のプラットフォームにもよりますが、データ分析向けのプログラミング言語で柔軟に操作ができるなど、分析手法を自由に選びやすい点も魅力です。
3. カスタマーデータプラットフォーム(CDP)との違い
カスタマーデータプラットフォーム(CDP:Customer Data Platform)とは、顧客データの収集・集約・蓄積ができるデータ基盤です。
CDPは、ユーザーの情報を集めて分析できる場所という観点からデータクリーンルームと混同されることがあります。実際に両者は似通った特徴を持ちますが、主な視点に違いがあります。
CDPは社内の散らばっているデータを集約して分析するなど、既存顧客との関係強化に活用されがちです。一方、データクリーンルームは、外部のデータから新規顧客の獲得に向けたインサイトを得るためにもよく使用されます。
CDPの特徴や活用方法は、以下の記事もあわせてご確認ください。
>>CDPとは?特徴や活用方法、DMPとの違いについても解説
4. データマネジメントプラットフォーム(DMP)との違い
データマネジメントプラットフォーム(DMP:Data Management Platform)とは、広告配信の最適化のために利用されるデータ基盤です。
1st Party Data(自社が直接取得したデータ)を扱うプライベートDMPと、3rd Party Data(第三者が取得としたデータ)を扱うパブリックDMPの2種類に分かれています。プライベートDMPはCDPと同一視されることも多く、現在はDMPといえば後者のパブリックDMPを指すケースが増えています。
データクリーンルーム、CDP、パブリックDMPの一般的な特徴と違いをまとめると、以下の通りとなります。
名称 | 特徴 |
データクリーンルーム | 自社のデータとプラットフォーマーのデータを掛け合わせることができるデータ分析用クラウド環境。外部データから新たな知見(新規顧客の獲得策など)を得やすい。通常、データからの個人特定はできず、プライバシーにも配慮されている。 |
カスタマーデータプラットフォーム(CDP) | 主に社内で散らばっているデータ(1st Partyデータ)を集約して分析できるデータ基盤。既存顧客との関係強化に利用されやすい。氏名・住所などの個人情報も取り扱うため、プライバシー面に配慮されたツールを選定することが大切。 |
データマネジメントプラットフォーム(パブリックDMP) | 匿名化した3rd Partyデータを複数企業で共有できるデータ基盤。主に広告配信の最適化のために利用される。Cookieを活用するものもあり、今後の展開に注意が必要。 |
5. データクリーンルームを活用するメリット
では、データクリーンルームを活用するメリットにはどんなことが挙げられるのでしょうか。
5.1. 「個人情報流出事故」などのインシデント対策となる
データクリーンルームでは、個人を特定できない形でデータ分析を進められます。万が一、ルームから分析中のデータが流出した場合にも、そこには誰かの氏名や住所などの情報は含まれていません。また、データは暗号化してやり取りされるうえ、アクセス権の制限もできるため、情報流出のリスクを最小限に抑えられます。
5.2. プライバシーを尊重する企業だとアピールできる
データクリーンルームの活用とその事実の公開は、取引先や顧客に対して「私たちはプライバシーを尊重する企業です」とアピールすることに繋がります。
前述の各種法整備やCookie規制により、現在は社会全体が個人情報の取り扱いに敏感な状況です。いち早くデータクリーンルームを活用し、不誠実な個人情報の利活用をしないと明言すれば、ブランド価値の向上に繋がるでしょう。
5.3. 自社のみでは難しい大規模なデータ分析ができる
データ分析の結果の精度は、分析元となるデータの量と質に大きく依存します。データクリーンルームの活用により大手プラットフォーマーの莫大なデータを分析に用いることで、自社単独では見つけられなかった新事実まで明らかにできるでしょう。元データの出所が明確であり、分析に不確定要素が混ざりにくい点も長所です。
6. データクリーンルームの活用例
既に国内でも、データクリーンルームの活用は進みつつあります。その事例をご紹介します。
6.1. 動画広告と購買行動の関係性の実情を分析
ある大手広告会社は、Cookieレス時代への対応策としてデータクリーンルームの活用をはじめました。
Googleの提供するデータクリーンルームを用い、自社の保有する購買データとプラットフォーム側のデータをあわせて分析することで、YouTubeの動画広告がどの程度購買に寄与しているのか、その実情を明確化しています。
6.2. 自社サービスの拡大可能性を模索
あるSNS会社では、顧客データ基盤を提供する大手企業との業務提携により、データクリーンルームの共同開発とその活用を進めています。
両社がそれぞれ自社サービスで取得したデータを掛け合わせて分析し、顧客への新しい価値提供の仕組みを作り上げる試みです。将来的には、計測の難しさで知られるオフラインでの購買行動の把握や、当該SNSからパーソナライズされた広告を配信できるシステムの構築が実現すると期待されています。
7. まとめ
データクリーンルームとは、プラットフォーマーから提供されている、ユーザーのプライバシーを守りつつデータ分析を進められるクラウド環境のことです。個人情報保護の気運が高まるこれからのマーケティングにおいて必須の取り組みともいえます。
プラットフォーム側のビッグデータも利用でき、昨今話題のCookie規制への対応策にもなるなど、ビジネスにおける大きな活用の可能性を秘めたデータクリーンルームへの理解を、ぜひ他社に先駆けて理解しておきましょう。