優れた顧客体験を提供するためには顧客データの利活用が必要ですが、一方ではプライバシー保護規制の動きが強まっています。そうしたなか、企業が顧客データの利活用を継続するために注目されているのが、ファーストパーティデータです。
この記事では、ファーストパーティデータの概要や類似データとの違い、重要視される理由、収集・活用方法、注意点までご紹介します。
1. ファーストパーティデータ(1st Party Data)とは?
ファーストパーティデータ(1st Party Data)とは、ほかの企業など第三者の手を介さず自社が直接集めた情報のことです。マーケティング分野では顧客の属性情報や行動データを指すケースが多く、以下が代表例として挙げられます。
会員登録時に顧客が提出した情報(氏名、住所、メールアドレスなど)
自社ECサイト内の顧客の行動履歴や購買履歴
お問い合わせ窓口への相談内容や履歴
商品体験会やセミナーで収集した個人情報
実店舗のPOSデータ
自社が直接集めたデータであれば、オンライン・オフラインどちらで収集した情報であってもファーストパーティデータと呼ばれます。
2. ファーストパーティデータに関連する用語や違い
ファーストパーティデータを理解するためには、併せて理解しておくべき関連用語がいくつかあります。
1. ゼロパーティデータ
ゼロパーティデータとは、顧客が自社に対して積極的・意図的に提供したデータのこと。
自社が直接取得するファーストパーティデータの一部であり、そのなかでも顧客が自覚的に共有するデータを強調するための用語です。
2. セカンドパーティデータ
セカンドパーティデータとは、他社が直接取得した情報のこと。他社のファーストパーティデータを自社が購入したり共有を受けたりする際に、セカンドパーティデータと呼ばれます。
3. サードパーティデータ
サードパーティデータとは、自社と直接関係のない第三者が収集した情報のこと。利用にあたっては、公開元の信頼性や調査手法の妥当性を十分に見極める必要があります。
4. Cookie
Cookieとは、ユーザーがWebサイトを訪れた時にログイン情報や閲覧の履歴などをブラウザへ保存する仕組みです。「○○パーティデータ」と類似した形で「ファースト」「セカンド」「サード」に分かれており、現在はサードパーティCookieの規制が注目されています。
あらためて、ファーストパーティデータと関連用語との違いを以下の表にまとめました。
名称 | 概要 |
ゼロパーティデータ (Zero Party Data) | 顧客が自社へ積極的・意図的に提供するデータ。ファーストパーティデータの一部であり、顧客が自覚的に提供するものを強調していう。 |
ファーストパーティデータ (1st Party Data) | 自社が直接収集したデータ。情報源が明らかで、顧客本人からの同意も得やすく、信頼性が高い。 |
セカンドパーティデータ (2nd Party Data) | 他社が直接取得し自社が受け取ったデータ。取引先からの購入やグループ会社からの共有など、手段は問わない。 |
サードパーティデータ (3rd Party Data) | 自社と直接関係を持たない第三者が収集したデータ。(政府や地方自治体の公開する統計情報、リサーチ会社が公開・販売する調査結果など) |
Cookie | ユーザーがWebサイトを訪れた際にログイン情報や閲覧履歴をブラウザに保存する仕組み。 |
3. ファーストパーティデータの重要性
では、なぜファーストパーティデータは重要視されているのか、その理由を見ていきましょう。
1. Cookie規制が進んでいる
これまでマーケティング施策に活用されてきたサードパーティ Cookieは、ユーザーの行動を強力に追跡できる特性から、現在では個人のプライバシーを侵害しているとして問題視されています。大手ブラウザベンダーが規制・廃止を進めており、マーケターはポストCookie時代に備えた顧客情報の利活用策を見つける必要性に迫られています。顧客から取得や利用の同意を得やすいファーストパーティデータは、その解決策の筆頭です。
以下の記事では、マーケターがポストCookie時代を生き残るための対策やポイントを解説しています。
>>ポストCookie時代とは–今から取るべき対策やポイントについて紹介
2. ブランド価値を高めることができる
ほぼすべてのアドテクノロジー専門家は、マーケティングの未来はファーストパーティデータにあると考えています。顧客自らが望んで共有しやすいファーストパーティデータは、プライバシー保護の重要性が指摘されるいま、時代に即した形で利活用を進めやすい貴重な顧客情報です。大切な「お客さまの声」として活用を進めることで、ブランド価値の向上に繋げられます。
3. 顧客データの精度向上に繋がる
自社が直接取得するファーストパーティデータは、情報としての精度が高く、また取得方法も柔軟に検討できるのが特徴です。例えば、アプリユーザーの購買行動を即時に把握できるシステムを導入することで、ショッピングカートに入れたものの決済画面に進まなかったユーザーを対象にパーソナライズされたメッセージを送るなど、新時代の顧客体験を提供できます。
4. コストを抑えたデータ活用が可能になる
データ活用に関するコストの節約の観点からも、ファーストパーティデータは有効に機能することがあります。ほかのデータと異なり、「自社への情報提供にユーザーは同意しているのか」「調査方法の誤りや母集団の偏りはないか」などを調べるコストが求められないためです。ただし、データ取得にまつわるコストとの兼ね合いは意識しておく必要があります。
5. 顧客理解を深められる
これまで述べてきたように、ファーストパーティデータは自社が直接取得したデータであり、集める情報も任意に決定できます。企業のデータ活用時にありがちな「目的に対して直接的に役立つデータがない」という状態を防ぎ、自社にとって本当に価値のある情報を集められます。ほかのデータの分析とは比較にならないほど顧客を深く理解していけるでしょう。
6. プライバシーリスクが軽減できる
前述の通り、ファーストパーティデータはポストCookie時代のデータ利活用の有効策として注目されています。
それは、単にサードパーティCookieを使っていないからではなく、仕組みとしてユーザーのプライバシーを尊重しやすいためです。本人からの情報取得・利用の同意を得やすいのはもちろん、ほかのデータのような(自社の関与していない部分での)取得方法の倫理的な問題が発覚するリスクを避けられます。
4. ファーストパーティデータの収集方法
では、企業はファーストパーティデータをどのようにして収集すべきなのでしょうか。
1. オンラインでの収集
オンラインでの収集には、以下のような方法が挙げられます。
自社サイトにおけるWebトラッキング(行動データの収集)
メルマガやアプリ内告知から誘導したオンラインアンケートの実施
SNSでのユーザーとのコミュニケーション
資料請求・お問い合わせなどの入力フォームからの情報収集
このようなデータ取得の労力を削減する手段としては、この後にご紹介するCEP、CRM、CDP、DMPといったITツールの導入が有効です。
2. オフラインでの収集
一方、オフラインでの収集方法には以下のような手段があります。
リアルイベントの開催(セミナーや展示会などでの名刺交換やインタビュー、アンケート)
店頭での会員証やメンバーカードの発行
(会員情報と紐づけた)店頭での購買履歴
特に、リアルイベントの開催は有効な手段です。イベント会場を訪れるだけの熱量のある顧客、すなわち成約に結びつきやすい見込み顧客(ホットリード)のファーストパーティデータを収集できます。
3. CEP (カスタマーエンゲージメントプラットフォーム)の導入
CEP (カスタマーエンゲージメントプラットフォーム)とは、顧客との信頼関係(カスタマーエンゲージメント)の強化に向けて、顧客行動のリアルタイム把握やユーザーのセグメント化、パーソナライズされたアプローチを実現できるITツールです。BrazeもCEPの一種であり、自社が自ら顧客情報を収集・蓄積していくために活用いただけます。
4. CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)の導入
CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)は、日本語では「顧客関係管理」と訳されるITツールです。顧客情報を収集、一元管理し、しばらく購買のない顧客に困りごとはないかと連絡をするなど、既存顧客と自社の関係を保つために主に活用されます。もちろん、ファーストパーティデータを取得する手段としても役立ちます。
5. CDP(カスタマーデータプラットフォーム)の活用
CDP(カスタマーデータプラットフォーム)も顧客の情報や行動データを収集・蓄積していくためのITツールです。CRMとよく似ていますが、CRMはある顧客との連絡履歴など個別の詳細データを扱うのに対して、CDPは企業と顧客のやり取りの全体像を把握するのが主な目的といわれています。ただし、この違いは使い手や企業によっても異なり、厳密なものではありません。
6. DMP(データマネジメントプラットフォーム)の活用
DMP(データマネジメントプラットフォーム)は広告配信の最適化に活用されるデータ基盤です。ファーストパーティデータを扱う「プライベートDMP」とサードパーティデータを扱う「パブリックDMP」の2種類に大別できます。なお、プライベートDMPはCDPと同一視されることもあります。
5. ファーストパーティデータの活用方法
続いて、ファーストパーティデータの活用方法を確認していきましょう。
1. 顧客満足度の向上
顧客のことを詳細に把握できるファーストパーティデータは、顧客満足度を高めるために有効です。
例えば、アンケートで共有された顧客の不満や、自社サイトやアプリで収集した数値(離脱率など)は、業務改善のための重要な手がかりです。より良いサービスを目指すための改善の方向性を、データを根拠にしながら決定できます。
2. 効率的・効果的な広告配信
広告配信の成果は、配信方針を決める際の根拠としたデータの質に依存します。高い精度を誇るファーストパーティデータは、その根拠に最適です。実際の反応を繰り返し測定することで、配信のターゲット・時間帯・文言・デザイン・デバイス・媒体など、すべてを効果的なものに改善していけます。
3. 見込み客の獲得
一部のファーストパーティデータの収集過程は、見込み客を獲得する過程であるともいい換えられます。
例えば、リアルイベントやお問い合わせフォームで集めたデータは、自社サービスに興味を抱いている見込み客の情報そのものです。もちろん、獲得した見込み顧客へのアプローチには、これまで成約に至った顧客たちのファーストパーティデータが参考になります。
4. 新たなサービスの創出
ファーストパーティデータとして得た声は、新製品・サービスの開発における貴重な手がかりとなります。企業が考える「顧客が喜ぶもの」ではなく、「人々から本当に必要とされているプロダクト」の検討に有効です。仮に、市場にまだ登場していないサービスを創出できれば、ブルーオーシャンのなかで莫大な収益を上げることも可能でしょう。
6. ファーストパーティデータを活用する際のポイントや注意点
続いて、ファーストパーティデータの活用方法と重要ポイントをご紹介します。
1. 目的を明確化しておく
ファーストパーティデータの活用にあたっては、最初に目的を明確にしておきましょう。プライバシー保護にまつわる法規制が進む近年は、不要な個人情報をいたずらに収集・保管しておくこと自体がリスク要因となります。目的を定めることで、自社がこれから集めるべき情報を取捨選択できます。
2. 利用目的とメリットを明示する
ファーストパーティデータを収集する際は、顧客に収集したデータの利用目的を通知することが大切です。データ収集に応じるメリットも伝えられると、前向きに情報を提供してもらいやすくなります。利用目的を通知しないまま個人情報を取得すると、GDPRや改正電気通信事業法などの法規制に抵触する可能性があります。
3. 必要な情報データの量と精度に気をつける
統計分析では、データの量と質が分析の結果を大きく左右します。データの量が足りない、あるいは質が悪い場合、誤った分析結果が導かれやすいため注意しなければいけません。
有意水準や効果量などから必要な「サンプルサイズ(データ数)」を算出したり、データ収集の方法に誤りがないか(アンケートの項目が恣意的ではないかなど)を判断したりと、統計的に妥当な調査を行う必要があります。
4. データを運用する人材を確保しておく
統計的に妥当な形でファーストパーティデータを収集するためには、データ分析や運用に知見を持つ人材の確保が求められます。社内での教育はもちろん、外部人材の雇用も選択肢となるでしょう。人材の確保にあたっては、自社のデータ分析環境で利用されやすい言語(「R」や「Python」など)を明確化しておくとスムーズに進みやすくなります。
5. ツールの導入を検討する
統計やプログラミング言語の知識を持つ人材の確保が難しい場合、直感的な操作の可能なITツールの導入が解決策となります。
前述の通り、ファーストパーティデータの収集や活用ではCEP、CRM、CDP、DMPなど多くのツールが活躍します。自社の扱いやすいツールを選定することで、現在のマーケティング部門の人員のままでもファーストパーティデータの活用に向けて取り組みをはじめられるはずです。
6. 検証と改善を繰り返す
見落としがちなポイントとして、施策の検証と改善を繰り返すための仕組み作りも意識しておきましょう。
ファーストパーティデータを活用した施策は、一度実行して終わりでは不十分です。市場トレンドや顧客ニーズは目まぐるしく変化するため、自社のサービスも絶えず進化させていく必要があります。検証と改善のサイクルを作るためにも、ITツールの利用は有効です。
7. Brazeはファーストパーティデータのために作られた
ファーストパーティデータの活用に向けて導入するITツールには、ぜひBrazeの利用もご検討ください。
Brazeのパーソナライズ機能を使えば、ファーストパーティソースから簡単にデータを取り込み、約1秒でマーケ施策展開のためのデータ活用体制が整います。技術的な要素を考慮せずに顧客をセグメント化し、それぞれにパーソナライズされたメッセージを提供できます。
例えば、ファッションECのリーディングブランドである Pomelo Fashion は Braze キャンバスを活用し、ユーザーの好みや最近見た商品、購入までの道のりなど、立ち寄った場所に基づきターゲットを絞り込みました。
そのうえで、Pomelo Fashion はユーザーの名前と最近チェックした在庫が少ない商品の画像を付けた、きわめてパーソナライズされたプッシュ通知を送信。結果、一般的なプッシュ通知と比べ、セッション数が126%増加、コンバージョン数は66%増加するなど、確かな成果を手にしています。
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8. まとめ
個人情報の利活用が大きな問題となるいま、企業には顧客のプライバシーを尊重する姿勢が求められています。ファーストパーティデータは、個人情報の保護とパーソナライズされたマーケティングの継続の両立に向けた解決策として、今後ますます存在感を増していくと予想されます。
情報の利活用の安全性を担保しながら有効なマーケティング施策を継続的に打ち出すために、ぜひITツールを取り入れたファーストパーティデータの利活用を進めましょう。