データアジリティ


GoogleのサードパーティCookie非推奨化の撤回の先に待つ未来

Taguchi Makoto 作成者: Taguchi Makoto 2024/10/11

GoogleのサードパーティCookie非推奨化撤回の経緯と、これまでのプライバシーに対する規制や仕組みがWeb広告やアプリ広告にどのような影響を振り返りながら、ファーストパーティデータの活用がなぜ重要なのかを改めて解説します。

2020年、GoogleはChromeでのサードパーティCookie廃止を表明し、多くのマーケターがデータ戦略の再考を余儀なくされました。しかし、2024年7月、Googleはこの方針を一部撤回し、「ユーザーが自分のデータがどのように追跡されるかをコントロールできる仕組み」を検討中と発表しました。

サードパーティCookieが延命されたように思われますが、この発表が「マーケターにとっての安泰」という意味ではありません。規制強化やユーザーのプライバシー意識の高まりは続いており、結論としては、サードパーティCookieは存続できないことに変わりはありません。


プライバシー保護の流れは後退しない

2018年に明るみに出たケンブリッジ・アナリティカ事件は、デジタルプライバシーに対する意識を大きく変える出来事となりました。この事件の後に発効したGDPR(欧州一般データ保護規則)では、企業がデータ保護を怠った場合、多額の罰金が課されることが可能となり、プライバシー保護の強化が進められました。CCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)も同年に施行され、企業に対して、消費者が自分のデータをどのように収集・利用されているかを知り、そのデータの削除や販売の停止を要求できる権利を付与しました。

日本においても、2020年には個人情報保護法の改正​​が行われました。2019年に報道された「リクナビの内定辞退予測サービス問題」では、ユーザーの情報を目的を開示することなく集計・分析をして、その情報を同意を得ることなく第三者の企業に提供されていたことが問題視されたことから、電気通信事業法の改正が2023年に施行、事実上の日本版クッキー規制として注目を集めました。

このような事件や規制の強化を受けて、多くの消費者は、自分のデータがどのように収集・利用されているかに敏感になり、企業に対して透明性とコントロールの向上を求めています。広範囲にユーザーデータを収集し、パフォーマンス向上を追求してきたデジタル広告領域において、プライバシー保護はパフォーマンスの低下に直結します。しかし、この傾向は今後も続き、ユーザーのニーズに応じてプライバシー保護を強化させようという動きは止まらないものと考えられます。



先行するiOSでのプライバシー規制

Appleは収益源の大部分がハードウェアやサービスによるものであり、デジタル広告領域に依存が少ないということもあり、ユーザーのプライバシー保護の強化を先行して進めてきた企業と言えるでしょう。

AppleはiOS 14.5から導入されたApp Tracking Transparency(ATT)に呼ばれる、ユーザーがアプリでのトラッキングを許可するかどうかを選択できる仕組みを導入しました。このATTで許諾が得られない場合、広告IDであるIdentifier for Advertisers(IDFA)の取得が行えないため、アプリのインストール広告やターゲティング広告に影響があります。許諾するユーザーの割合はアプリ毎に大きく異なりますが、平均すると20〜30%と言われています。

(ATTによるトラッキングの許諾に関するポップアップ)


これに併せて、Appleは「SKAdNetwork」と呼ばれるアプリ面の広告効果計測方式の普及を強化しました。この方式では広告ID「IDFA」を使用せず、アプリのインストールやコンバージョンなどの計測が可能です。ATT許諾有無に関わらず機能する利点はあるものの、ユーザーレベルのデータを直接取得できなかったり、リターゲティングが行えないなどの制約があります。

また、Web広告においては、Appleは2017年以降Intelligent Tracking Prevention(ITP)によりCookieの利用を段階的にブロックしてきています。

iOS14のリリースの タイミングで Safari以外のChromeやFirefoxといった他のブラウザにも適用され、WebviewアプリにITPがデフォルトで有効になっています。

つまり、iOS上のWebブラウザにおいては、3rd Party Cookie によるトラッキングは事実上困難になっています。

このようにiOSではユーザープライバシー保護強化がすでに進んでいます。その一方で、iOSにおける広告やマーケティングに影響をもたらし、サードパーティデータを利用したターゲティングの精度が大幅に低下したと言われています。


Googleのクッキー許諾の仕組みはATTに似たものになるか?


一方、広告の収益に大きく依存するビジネス構造を持つGoogleは、ユーザーのプライバシー保護強化とビジネスの存続の両立を模索する必要があります。今回のサードパーティーCookie非推奨化方針の撤回もこの一連の流れの出来事となっています。

Googleは2022年2月、Androidの広告IDであるGoogle Advertising ID(GAID)を、時期は未定ながら廃止すると発表しました。この発表の一環として、GoogleはGAIDがなくても広告測定を可能にする、Android版Privacy Sandboxを発表しました。Android版Privacy SandboxはSKAdNetworkとはアーキテクチャは異なるが、コンセプト自体は近しいものとなっており、AppleのSKAdNetworkの教訓を活かしながら設計されているようです。

また、Googleが今回の発表と併せて言及した「ユーザーが自分のデータがどのように追跡されるかをコントロールできる仕組み」という内容からは、AppleのATTに近いものではないかと類推できます。この場合、サードパーティCookieの使用許諾率は、iOSにおけるトラッキング許諾率(およそ20〜30%)に近くなるはずです。続報が待たれますが、大多数のユーザーに対してCookieが利用できなくなることは想定されるため、Cookieが無くても計測できる仕組みの一つとして、Web版Privacy Sandboxの開発も存続されるのではないかと考えられます。

AndroidやPCの世界でもiOS同様に、広告IDやCookieを前提としない状況に備えることが必要であり、備えたとしても、ターゲティングの精度の大幅な低下などは避けられない見通しです。

今後マーケターは何に注力すべきか?

サードパーティCookieの廃止が遅延したことは、マーケターにとって一時的な猶予にすぎません。この状況下で、マーケターができることはどのようなことでしょうか。

1. Cookieや広告IDに頼らない広告マーケティングへの移行

依然としてサービスやアプリ自体を知ってもらうためには広告の重要性は変わらず、無くなるわけではありません。

Web広告でのIDソリューションクッキーレスの施策や、アプリ広告でのSKAdNetworkやAndroid版のPrivacy Sandboxをしっかり活用することも重要です。

様々なソリューションが乱立し、進化の早い領域ですが、競合に差をつけられないためにもしっかりキャッチアップする必要はあるでしょう。

2. ファーストパーティデータを活用したマーケティングの高度化

一方で、個々のユーザーレベルのデータという切り口で考えた場合に、アプリの外の世界の「サードパーティデータ」と、アプリの中「ファーストパーティデータ」の分断がますます進むことは避けられません。

ユーザーがどの広告キャンペーンに反応したかに基づいて、サービス内の施策に関連づけることや、カゴ落ちした商品をクリエイティブにしたリターゲティング広告を行うことはますます困難になります。

このような状況下では、既存のユーザーのニーズに向き合い直接コミュニケーションを取るようなマーケティングが、ますます大事になっています。例えば、ユーザーに直接聞いた嗜好やアプリ内の行動データに基づく訴求を行なったり、カゴ落ちしたユーザーに対して、プッシュ通知やメールなどの適切なチャネルで、ユーザーに反応してもらいやすいタイミングで訴求することです。

ファーストパーティデータを効果的に活用するためには、適切なテクノロジーの導入とユーザーとのタッチポイントとなるチャネルの統合、そしてユーザーから自発的なデータを収集・活用することが重要です。これにより、パーソナライズされたユーザー体験を提供し、マーケティングの効果を高めることができます。


今回のようなサードパーティCookie非推奨化の撤回という、一見プライバシー保護の意識の高まりの反動に見えるような話もありますが、結局はプライバシー保護強化の一つの流れの中での一つの騒動に過ぎません。将来的には、サードパーティーCookieや広告IDの有効性は低下し、従来の広告中心のマーケティング手法では持続的な成長が見込めなくなるでしょう。

Brazeは、特にこのようなファーストパーティデータの活用が、お客様のブランドの成功につながると信じており、この面でより多くのお客様のお力になれればと考えております。




Taguchi Makoto

Taguchi Makoto

新卒にて日本IBM入社。ITアーキテクトやPMとして、金融系の大規模システムの開発や、多業種にわたり、ビッグデータ基盤の移行、ETLシステム構築、マスターデータ管理システム構築を経験。その後AppsFlyerにて、CSMおよびソリューションアーキテクトとして、モバイルアプリのユーザ獲得施策支援や導入・移行のための技術支援を担当。現在Brazeでは、ソリューションアーキテクトとして、Brazeを初めて導入するお客様の技術支援をしております。


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