AIはすでに私たちの生活のあらゆるシーンで活用されている便利な技術ですが、導入・活用にあたってはメリット・デメリットをしっかりと理解しておく必要があります。
この記事では、AIのメリット・デメリットや主要な分類、注意点や活用事例をご紹介します。
1. AI(人工知能)とは
AI(Artificial Intelligence:人工知能)とは、「学習や推論の機能により、従来とは一線を画す問題解決能力を持つITツール」といった意味で使われる用語ですが、実は定義の曖昧な言葉でもあります。
1. AIの定義
「AI」という言葉には統一的な定義がありません。以下のように専門家や有名団体の間でも表現は異なっています。
人物・団体 | AIの定義 |
松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科教授) | 人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術 |
総務省 | 人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラム、あるいは人間が知的と感じる情報処理・技術といった広い概念 |
人工知能学会 | 知能のある機械のこと |
コンピュータにさまざまな高度な機能を実行できるようにさせる一連のテクノロジー |
引用:Braze「弱いAI?強いAI?それぞれの違いやシンギュラリティとの関係性を解説」
人間のような知能を指すこともあれば、その関連技術まで含むケースもあります。少し複雑ですが、後ほど解説する「強い・弱い」や「特化型・汎用型」の分類を押さえておくと、AIとは何かを理解しやすくなるかもしれません。
2. 得意なこと・苦手なこと
AIは多くの作業を得意としていますが、なかでも「大量のデータの処理」「アイデアの提案」「特定の作業の繰り返し」を上手にこなします。
一方、AIには人のような心や倫理観はなく、感情の理解や社会常識の把握が必要な業務は苦手としています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
>>生成AI(ジェネレーティブAI)は?AIとの違いや特徴、活用メリットについて解説
2. AIの分類
では、AIの分類として、「強い・弱い」「特化型・汎用型」の枠組みを見ていきましょう。
1. 強いAI
強いAIとは、人間のような心や意識を持つAIで、アメリカの哲学者ジョン・R・サール氏が提唱した分類です。
しかし、2024年5月現在ではまだ強いAIは社会に登場しておらず、有名な「ChatGPT」も次の弱いAIに分類されます。
2. 弱いAI
弱いAIとは、人間のような心や意識を持たないAIです。2024年5月現在、社会に登場しているAIはすべて弱いAIに分類されます。ChatGPTも統計的な推論から返答しているだけで、そこに心はありません。
この「(現在の)AIには心や意識がない」という点が、AIのメリット・デメリットの理解や自社業務への導入におけるカギとなります。
人間の思考や意識での分類 | |
強いAI | 人間と同等の心や意識を持つAI |
弱いAI | 人間と同等の心や意識を持たないAI |
3. 特化型AI(AGI)
特化型AIとは、事前に設定したあるタスクのみをこなすAIです。「カラスとスズメの画像判別は高精度にこなすが、それらの絵を描くことは一切できない」といったような、柔軟性のないAIを指します。
4. 汎用型AI(GAI)
汎用型AIとは、人間のように複数のタスクをこなせるAIです。「カラスとスズメの画像判別の知識を用いて、それらの絵を描くこともできる」といった柔軟性のあるAIを指します。
実現できる範囲での分類 | |
特化型AI(AGI) | 事前に設定された特定のタスクにのみ対応できるAI。心や意識の有無は関係がない |
汎用型AI(GAI) | 複数のジャンルのタスクに臨機応変に対応できるAI。心や意識の有無は関係がない |
AIの弱い・強い、特化型・汎用型の違いを詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご確認ください。
>>弱いAI?強いAI?それぞれの違いやシンギュラリティとの関係性を解説
3. AIを導入するメリット
では、AIを自社に導入することでどのようなメリットが見込めるのかを確認していきましょう。
1. 生産性の向上が見込める
多様な作業を瞬時にこなすAIは、企業の生産性向上に寄与します。例えば、生産過程において目視で行う不良品の検査や、日報のような形式的な社内文書の作成などの業務をAIに任せれば、劇的な効率化が期待できます。
2. 働き手不足の解消に繋がる
業務の一部をAIに置き換えることは、働き手不足の対応策としても機能します。例えば、深夜や休日の問い合わせ対応のような人員の確保が難しい業務も、AIチャットボットなら疲労を感じずにこなしてくれます。倫理的に問題のない範囲を意識すべきですが、必要に応じて人件費の見直しを進めることもできるでしょう。
3. ヒューマンエラーを減らせる
AIには人間のような体調の変動がなく、常に一定の業務クオリティを期待できるのがメリットです。また、AIを活用した作業手順を明確に定めておけば、新人からベテランまで同じように仕事をこなしやすくなり、ヒューマンエラーや業務属人化の防止にも繋がります。
4. 新たなアイデアが生まれる
相手の疲労や都合を考慮せず話し相手となれるAIは、新たなアイデアを生み出すための「壁打ち」の相手に向いています。「キャッチコピーの案を100個出して」など、人間には頼みにくいアクションも可能です。
5. リアルタイムでデータを分析できるようになる
AIは膨大なデータを素早く取り扱えるのが特徴です。お問い合わせ用のチャットボットのように、相手の言葉や既存の顧客情報を瞬時に分析して返答を生成するなど、従来とは異なるスピード感でビジネスを遂行できます。
6. 顧客一人ひとりに合わせたコンテンツが作成できる
素早くデータを分析でき多様なアイデアも得られるAIは、顧客一人ひとりにパーソナライズされたコンテンツを提供するために役立ちます。担当マーケターの直感や思い込みによる施策ではなく、数値を根拠とした取り組みを実践できます。
4. AIを導入するデメリット
一方、AIを導入することにはデメリットもあります。5つのポイントを見ていきましょう。
1. 万全なセキュリティ環境が必須
多くのAIツールはオンラインでの稼働を前提としており、大切な顧客データをインターネット接続のある状態で取り扱うことになります。情報流出のリスクを避けるため、適切なセキュリティソフトの導入やルール(例:AIツールを開いたまま離席しないなど)の徹底は必須です。
2. AI運用における人材・維持コストが必要
AIは働き手不足の解消に貢献します。また、誰もが同じように扱いやすい点にも魅力があります。
しかしそれは、AIツールの選定や運用方針の決定が正しくできる、責任ある人材の存在が前提です。トータルで見れば人件費が節約できる可能性は高いものの、AI運用の人材を確保するコストは求められます。
3. 誤った情報が生成される可能性がある
実務上の大きなデメリットとなるのが、AIの生成内容は正しいとは限らない点です。AIは「ハルシネーション」と呼ばれる、もっともらしい嘘をつく現象を抱えています。学習データに偏りや量の不足、古さなどがあると、ハルシネーションが生まれやすくなります。
4. 著作権や商標権などの権利侵害が起こる可能性がある
AIはインターネットから大量のデータを学習して作られており、そのなかには著作権や商標権があるコンテンツも含まれています。その仕組みゆえ、他社が権利を持つコンテンツに類似した内容が生成されるリスクがあり、生成物の権利関係の最終的な確認は人間が行うべきです。
5. 倫理的に不適切なものが生成される場合もある
AIからは「権利や法律には違反しないが倫理的に問題のあるコンテンツ」が生成される可能性があります。倫理観や常識がなく、特定の人々を傷つけたり偏見を生じさせたりするコンテンツも出力してしまいます。権利や嘘の問題とあわせ、必ず人間が最終確認を行いましょう。
5. AIを導入する際の注意点
AIのメリットやデメリットを踏まえた上で、自社への導入時に意識すべき注意点を見ていきましょう。
1. ルールやマニュアルを作成する
AIを導入する際には、必ず社内ルールや取扱いマニュアルを作成しましょう。AIは便利なツールですが、従業員がそれぞれ自由に扱ってしまうと業務の質がバラバラになります。「2週間に1度は会話履歴を削除する」など、デメリットを最小限にするための規則の作成が大切です。
2. 活用範囲を見極める
AIは何でもこなせる魔法の杖ではなく、向き不向きの明確なツールです。自社業務のどのプロセスをAIに担わせるべきなのか、活用範囲を慎重に見極める必要があります。見極めには、後ほどご紹介するAIの活用事例もご活用ください。
3. 従業員のAIリテラシーの育成・向上環境を整える
現在、AIにはまだまだ課題も多く、その課題を理解した上での活用が欠かせません。生成物に嘘や倫理的問題が含まれる可能性を常に考えておくなど、従業員全員のAIリテラシーの熟成は必須であり、研修の実施に代表される適切な環境づくりが求められます。
4. 責任の所在をはっきりとさせておく
AIを用いる業務について、誰がどの部分の責任を持つのか明確にしておくことも重要です。例えば、AIに与えるデータ、プロンプト(指示文)、出力内容のそれぞれに対して責任者を任命すれば、無責任な運用を避けやすくなります。「AIが言ったから」を許さない社内風土を作り上げましょう。
5. 定期的に見直す
ここまでにご紹介したポイントを定期的に見直すことも必要です。AIは日進月歩で成長しており、法規制などの関連動向も絶えず変化しています。現在のAI過渡期が終わるまでは、少なくとも3ヵ月に1度などのペースで状況の確認と改善を進めましょう。
6. AIの活用事例
続いて、AIの身近な活用事例をご紹介します。
1. コンビニ・スーパー
コンビニ・スーパー業界では、AIを活用した無人店舗の取り組みが進んでいます。
無人店舗では、店舗内に配置された多数のAIカメラと陳列棚の重量を測れる機器の組み合わせにより、お客さんが手に取った品物をリアルタイムで判別しています。近未来的な顧客体験を提供すると同時に、人件費も一般店舗と比較して半減できると期待されています。
2. ホテル
ホテル業界では、チェックイン作業をAIに担わせる企業が登場しています。ホテルの予約時に公式アプリから顔を登録しておき、当日はホテル内にあるチェックイン機で顔を撮影すれば、AIの高精度な画像認識により受付が完了する仕組みです。
3. 医療・介護
医療業界では、レントゲン画像や内視鏡画像をもとにした病気の診断にAIが活用されています。既に専門医よりも判定精度が高いツールが登場するなど、取り組みが進んでいます。
介護業界では、認知症患者の話し相手になれるAIロボットが研究されています。人間と異なり何度同じことを聞いても不快に思わない特性から、認知症患者のリハビリやQOLの向上に役立つと期待されています。
7. BrazeのAIを活用したマーケティングツール
マーケターの業務をサポートするITソリューション「Braze」でも、AIを活用した機能の提供を進めています。
1. Braze AIコピーライティングアシスタント
Braze AIコピーライティングアシスタントは、OpenAI社のChatGPTと連携して独創的な文章を生成するAI機能です。希望のメッセージのトーンや過去のキャンペーンデータの使用の有無を指定していくだけで、商品のキャッチコピーや顧客へのメッセージの文章案が瞬時に作れます。担当者の知識や感性だけでは難しい「新奇性のある文章を毎回用意すること」が可能です。
2. Braze AIイメージジェネレーター
Braze AIイメージジェネレーターでは、希望の方向性を300文字以内で入力するだけで画像を生成できます。こちらも、OpenAI社のDALL-E 2を採用したツールです。
マーケティング業務では魅力的な画像を使いたい場面が多々あるもの。画像素材の提供サイトで時間をかけて選定している方も多いでしょう。このジェネレーターは、そのような非効率な時間の削減にご活用いただけます。
8. まとめ
AIは、私たちのビジネス環境を一変させる可能性を秘めています。しかし、その活用に向けてはメリットとデメリットを正しく把握しておくことが重要です。
ここでご紹介したAI導入の注意点を理解した上で、できる限りリスクを抑えた形で取り組みを進めてみてください。