Brazeの構築
日本のPdMへのメッセージ:Braze CPO Kevin Wangが語る、生成AIとプロダクト開発の今と未来
グローバルに成長を続けるSaaS企業、BrazeのCPOであるKevin Wang氏が、世界でのプロダクト開発の現状とこれからを自らの12年の経験を元に語ります。生成AIがプロダクト開発の現場に与える影響やテクノロジーが進化させる顧客エンゲージメントの可能性などに触れています。本記事はCPO協会主催「Product Leader Week 2024」での講演内容を書き起こしています。
西岡氏(聞き手):ケビンさん 本日はお時間ありがとうございます。Product Leader Week 2024にご登壇いただき光栄に思います。日本のPdM(製品開発)にあなたのインサイトをご共有いただけるのをとても楽しみにしています。まず、自己紹介をお願いします。BrazeのCPOとしての役割もあわせてお願いします。
Kevin : ありがとうございます。Braze の CPO のケビン・ワンです。Braze は顧客エンゲージメントを提供するSaaS企業で、日本ではメルカリ、タイミー、FODなど、グローバルではデリバリーヒーロー、ディズニー、HBOやヘッドスペースなどの企業が顧客にパーソナライズされたコミュニケーションを実行するための支援をしています。これにはプッシュ通知、SMS、LINE、Eメールなど、各種チャネルが含まれます。こうしたブランドはユーザーに素晴らしい顧客体験を提供したいと心から願っています。
Brazeに勤めて12年ですが、エンジニアとして参画したときは、従業員は8人で、PMFを達成しつつありましたが、顧客も売上もない、非常に小さい会社でした。ARRが5百万米ドルを達成したところで、プロダクトグループを担当することになりました。UI/UX、プロダクトマネジメント、技術文書、コード管理等も担い、現在に至っています。現在、BrazeはNasdaqで上場してます。
本日お話できるのを心から楽しみにしています。
日本にも東京にオフィスがありますので、ぜひ、よろしくお願いします。
聞き手:まず、日本の大戸屋のファンだとお伺いしました(笑)
Kevin : はい、日本食が大好きです。妻も同じで、NYでのお気に入りが「大戸屋」です。日本の伝統的な定食のお店だと思いますが、中でもトンカツが大好きです。他にも日本食のメニューがありますが、私が大戸屋を好きな理由は、日本の定食にノスタルジーを感じるからで、機会があれば足を運ぶようにしています。
聞き手 : 実は、私もトンカツが大好きです。
Kevin : そうなんですね!
聞き手:大戸屋への愛も含め、自己紹介ありがとうございました。文化を超えたちょっとした繋がりは、素敵なものだと思います。さて、最初のトピックに入りましょう。まず、Brazeでは生成AIをどのようにプロダクト開発に取り入れているのでしょうか?
Kevin : Brazeは早い段階から機械学習とAIを、プラットフォームに取り入れており、最近では生成AIの機能も統合しています。
2017年から始まる、Brazeの生成AI機能について
聞き手 : 新たに導入された生成AIの機能について教えていただけますか?
Kevin : はい、もちろんです。
聞き手 : 実は私たちは2017年頃、AIと機械学習のチームを立ち上げました。これは AI やChatGPT、大規模言語モデル、エージェントなど、最近のブームが起きるずっと前のことです。私たちがこれらに取り組んだ理由は、初期のAIアプリが実際に機能し始めているのが分かったからです。
今となっては当たり前ですが、例えば、Amazon EchoやAlexaのように、コンピュータが音声を認識する技術が登場し、モダンな機械学習の技術が効果的であることが明らかになってきました。そして、ちょうどその頃、ディープラーニングのモデルであるトランスフォーマーが発明され、実際のユースケースで使われ始めていました。
興味深いのは、初期の頃、現在のような生成AIに私たちは注目していませんでした。というのも、当時の生成AIの技術は、少なくとも私たちには使えないものだったからです。
その後、私たちは統計的手法やその他のアルゴリズム手法を使って、多様なAI機能を開発しました。これらの多くは今でも使用されています。生成AIに関しては、私たちが展開している多くの機能は、既存の顧客が必要としているものや、すでに抱えている問題をこの新しい魔法のようなツールで解決できるかどうかに焦点を当てています。例えば、多くの顧客はメッセージを作成する際、メールの件名やSMSメッセージでテストを行いますが、複数のパターンを用意してテストする必要があります。
ここで生成AIが役立ちます。また、画像生成も組み合わせることで、テストや実験をより迅速に行うことができます。さらにエキサイティングなことに、これらの大規模言語モデルはより深いレベルまで対応可能です。
さまざまなチェックの自動化、例えば、品質の確認やトーン設定を自動化できます。大規模言語モデルは、意味の多層的なチェックを行うことができるため、メッセージが文脈に応じた適切なトーンであるか、意味が通じるかどうかを判断できます。また、プロダクトの一部機能では、SQL文を書いて大規模なオーディエンスをターゲットにしたり、レポートを作成できます。生成AIを活用することで、SQLの記述をより迅速に行うことができ、スキーマに関する知識を基に、顧客がより早く利用を開始できるよう支援ができます。私たちは常に これらのツールが解決できる問題領域はどこか、どうすれば迅速にプロセスに組み込めるかを考えています。
生成AI機能の開発の舞台裏とは?
聞き手 : ありがとうございます、これらの機能は非常に魅力的ですし、生成AIを活用した多くの機能も興味深いですね。こうしたプロダクトがどのように開発されたのか、その裏側についてもぜひ、お聞きしたいです。
生成AI の統合は、開発プロセスに大きな変化をもたらしました。プロンプトエンジニアリングのような新しい役割、エンジニアおよびプロダクトチーム内でのシフトなど、開発プロセスやチームの規模、構造がどのように進化したのか、教えていただけますか?
Kevin : 素晴らしいご質問ですね。変わったことと、変わっていないこと、を考えるのはとても重要です。まず変わったことからお話しします。確かにAIチーム、AIグループにエンジニアを追加採用しました。データエンジニアリングやモデルを理解する能力、また多くのグループで重要視される定量アプローチへの深い理解を重視しています。どのチームもAI専門ではないものの、ある程度AIを理解することが求められています。AI技術がソフトウェア全体に広がっているのが理由で、今後もその流れは続くでしょう。
データサイエンティストの採用も継続しています。多くのモデルが必要となるほか、生成AIそのものでなくても、AIの利用自体が続いているからです。トランスフォーマーなど、最新の技術を使って、より優れた定量的・統計的手法を実行するには、データサイエンティストに開発、検証、テストを支援してもらう必要があり、会社全体としてこの方向にシフトしています。
一方、変わっていないこともあります。私たちはチームが非常に迅速に動くことを重視しています。そのために堅固で真に独立したチームが必要だと考えています。チームはプロダクトの特定の領域、特定の問題、カスタマージャーニーやワークフローに、長期間取り組むことで、その分野のスキルを深め、エキスパートとなり、作業の質を高めることができます。また、機能横断的なグループで働く、つまりエンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャーが一緒に働くことが重要です。これは従来から変わっていません。実際、AIによって、チームはさらに速く動けるようになっています。
聞き手 : なるほど。興味深いですね。この点に関連し、生成AIによって、プロダクトチームの主要ミッションの一つである、プロダクトの企画プロセスが変わっていると思います。生成AIの急速な進化に追いつくのは容易ではありません。特にプロダクトを開発している最中に、利用しているAIモデルの前提が変わった場合は大変だと思います。このようなダイナミックな環境下で、変化にどう対応していますか?生成AIの登場により、発見以外のプロダクト開発プロセスはどのように進化しましたか?新しいプロダクトアイデアの発見や検証に対するチームのアプローチの変化をお聞かせください。
Kevin : そうですね、急速に変化する環境で、機会やリスクを見極めるのは確かに難しいです。最終的にプロダクトの開発、構築に割ける意識や時間は有限です。そのため、正しい選択と優先順位付けが重要です。
ただ、Brazeはこの分野における経験が豊富です。当社のプロダクトが成功している理由の一つ、そして顧客が本当に求めていることの一つは、私たちが異なるチャネル全てに対応していることです。先ほど、SMS、メール、アプリ内通知、機能フラグなどを提供している、とお話しました。日本の主要なメッセージングプラットフォームであるLINEにも対応しています。私たちはこのような技術の変化を常に把握する必要があったため、今起こっていることは新しいプロセスでも、新しい試みでもありません。私たちは未来を形作りたい、という会社の価値観を大事にしています。つまり、未来がどのようになるかを考えています。長期的な観点で未来がどうなるか、また、どうあるべきかを確実に捉えるために、「形」を作っていきます。
AI時代におけるプロダクト開発の機会を考える際、私たちは「将来も変わらないと自信を持って言えること」と「違うものへ変化すると予測できること」の両方を考えます。例えば、変わらず確信を持って言えるのは、優れた顧客エンゲージメントはクロスチャネルで、リアルタイム、かつパーソナライズされたメッセージでなければならないということです。
一方、変わると考えているのは、AIモデルは今後さらに強力になること、そしてこうしたモデルとユーザーの対話のありかたです。私たちの顧客にとって、プロダクトとのインタラクションのあり方はAIと共に急速に進化していくと考えています。これらは変化が予測される点ですが、それ以外ではプロダクトは変わらないと、考えられるため、私たちはこの2点を慎重に分解し、プロダクト評価につなげています。
聞き手 : ありがとうございます。プロダクト開発の舞台裏を知ることができました。
Kevin:もう一つ、ちょっとしたヒントをお伝えできればと思います。プロダクト企画や戦術レベルでプロダクトについて考えている方に向けた話です。私達は大規模言語モデルを使用し、見落としている可能性のある論点を検証することを推奨しています。
例えば、自社のプロダクトについて考える際に、できない事、機能の限界を見落としてないかも考える必要があります。私たちはオープンに「LLMに入れてみて、そのアウトプットを確認しよう」と言い合っています。LLMはあなたの上司でも、管理職でもありません。LLMはそれほどスマートではなく、自分が何をアウトプットしているのか理解していませんが、あなたが良いアイデアを思いつく、良いきっかけを演出してくれるかもしれません。その良いアイデアを含めて検討するのはとても大事なことで、それゆえ、私たちはこうしたツールの使用を強く推奨しています。
生成AIはプロダクトマネジメントプロセスをどう変えるか?
聞き手:今のお話は二つ目のトピックに非常に関連しています。一つ目のトピックは 生成AI時代のプロダクト開発でした。次のトピックは、生成AIがプロダクトマネジメントプロセスにどのように影響を与えているかです。PRD(プロダクト要求仕様書)やプロダクトマネージメントでは、ますます生成AIを活用するようになっています。
私自身、プロダクトチームにChatGPTのようなツールを使用することを奨励しています。このような変化の中、 Brazeのプロダクトマネジメントプロセスはどのように進化しているのでしょうか?アイデア出しからローンチまでのプロダクトマネジメント効率化の観点で、生成AI活用のために現在検討中または導入済みのツールやアプローチがあれば教えて下さい。
Kevin : もっとも顕著なものとして挙げられるのは、文章を書くのが苦手、またはあまり経験のない人向けのツールです。PRD(プロダクト要求仕様書)に限定したお話ですが、生成AIツールは文章を磨き上げてくれるので、とても便利です。最近では PRDをより良く書くためのツールとして ChatPRD などが登場しています。発見プロセスをより直接的に支援するツールです。ただし プロダクト開発に生成AIを活用する方法は他にもあります。例えば、分析するためのクエリ実行などのケースは生成AIでの作業の方がはるかに簡単に行えます。
また 特定の人口統計に関する市場調査や特定の地域での市場シェアを調べる場合などに生成AIツールは活躍します。市場や特定のプロダクト、技術の歴史の理解をさらに深めたいときの強力なサポートとなるため、私達は開発プロセスに積極的に生成AIを取り入れています。前述のとおり、私たちは常に変わるものと、変わらないものを考えていますが、歴史から多くのことを学べるのです。この点が私たちの現在の注力分野と言えるでしょう。将来的に大きな変化が訪れるのはインターフェースのデザイン分野だと予想しています。
最近では、いくつかのスタートアップだけでなく、コラボレーションデザインツールである Figma もこの分野に取り組み始めています。これらのツールが指数関数的に成長していく中で、今後は多くのプロダクトマネージャーが、プロダクトのワイヤーフレームを取得するのに、デザイナーと協働して4週間作業する、またはFigmaで1週間作業するのではなく、プロンプトを入力してチャットするだけ、あるいは他のワークフローを使用して、15分から1時間程度で作業を完了させることができます。これが世界の向かう方向です。
聞き手 : 素晴らしいです。生成AIはプロダクト自体だけでなくプロダクトマネジメントにも影響を与えているのですね。
Kevin : おっしゃるとおりです。この点はとても興味深い部分です。モバイルやインターネットのようにto C向けのプロダクトだけでなく、to B向けのプロダクトにも変化をもたらします。さらには、プロダクト開発企業に対し、サービスを提供するビジネスにも影響を与えます。つまり、サプライチェーン全体にわたり全体的に影響を与え、その結果として、今後も非常にディスラプティブ(破壊的)な変化が続く、と思います。
聞き手:なるほど、生成AIがプロダクトマネジメントプロセスやプロダクト開発にここまで深く組み込まれている、というのは本当に興味深いです。
開発拠点がシリコンバレーではなく、なぜニューヨークなのか?
次に米国のテクノロジー業界全体に目を向けてみましょう。生成AI開発をリードしている多くの企業、例えば、OpenAI、Google Anthropicなどはシリコンバレーに拠点を置いています。なぜ、Brazeはニューヨークを拠点にしているのでしょうか? ニューヨークにはどのようなメリットと課題があるのでしょうか?
テック業界のダイナミズムの中で、シリコンバレーと比較し、ニューヨークでAI製品を開発するメリットとデメリットを教えて下さい。シリコンバレーの方が AI主導のプロダクト開発で、多くのメリットが得られる、と感じたことはありますか?
聞き手:はい、この点について、私もいろいろなことを考えてきました。この間も、妻とサンフランシスコに住んでいた話をしました。私はニューヨークで生まれ、ニューヨーク在住ですが、サンフランシスコで何年も過ごしました。妻がベイエリア出身ですので、私はニューヨークと西海岸の両方を経験しています。とても興味深い質問だと思います。特にCOVIDの後、米国でも多くの人がリモートワークを何年も続けていました。ベイエリアのテック業界、とくにエンジニアリング関連の多くの人がオフィスに戻らない状況はあるので、働く場所は重要ではなくなったように思えるかもしれません。
しかし、究極的に私たちはまだ人間であり 人間らしさも残っています。人間は自分の近くにいる人々に自然に惹かれるものなので、人工知能を作り出しても、ロボットエージェントを作り出せたとしても、私たちはロボットではないので、ロボットのような行動を取ることはありません。だからこそ、私たちが目にしているのはシリコンバレーで、依然として非常に高度なモデル開発が進行しているという現実です。
他方で Mistralはたしかフランスの企業だったと思いますが、すべてがシリコンバレーに集中しているわけではありません。ただ シリコンバレーは非常に多くのスタートアップ企業を抱えている点が、他の場所とは大きく異なります。なぜなら、そこにはカルチャーがあり、人々に出会い、友達を作り、次のビジネスアイデアやスタートアップの可能性、今取り組んでいること、ハックの対象サイドプロジェクトの内容や現在のプロジェクトなど、様々な意見交換ができるからです。
ニューヨーク、そして正直に言えば、世界の大部分は、ベイエリアのような起業家精神がありません。これは大きな違いだと思います。その結果、サンフランシスコに存在する多くのスタートアップは新しいテクノロジーのトレンドがやってくると、その新しい機会に向かって急速にシフトしていきます。私は彼らは間違っていないと、思います。実際に大きなチャンスだからです。単なる流行りに乗っている、というわけではないことを理解すべきです。文化的な違いも少しあると思いますがニューヨークは非常に商業的と言えます。
ニューヨークは、大きな利益を生むビジネスをどう作るか?を常に考えています。ベイエリアも、その傾向が強くなってきていますが、同時に純粋に技術的な側面から物事を考えている人たちも多くいます。これは西海岸やシアトルで顕著です。また、少なくとも米国国内ではボストンでも、商業化にあまり重点を置いていない純粋なテック企業が存在します。どちらが正しいとか間違っているということではなく、私はこの点が主な違い、と考えています。
米国の人材市場と日本でのAIプロダクト開発について
聞き手:なるほど、わかりました。米国の求人市場についても興味があります。AIプロダクトマネジメントの経験を持つ人材が非常に高く評価されるようになっているようです。この傾向は、特に採用やキャリアの成長の観点で、Braze、またはテック業界全体にどのような影響を与えていますか?
Kevin : 議論のあるところだと思いますが、少し馬鹿げていると感じています。つまり、少し昔までは、AIの活用がそこまで活発ではなかったので、人々のツールやプロダクトに対する経験値はそれほど高くありません。したがって、現在起こっていることは、人々が求人情報に対して、あまり深く考えていない、ということかもしれません。最も影響を受けている分野はデータサイエンスやアルゴリズムエンジニアリングだと思います。特定のモデルに取り組み、そのモデルをコード化する分野です。そういった部分では非常に重要だと思いますが、AIプロダクトの商業化やデザインは、まだ非常に新しい分野です。候補者に多くの経験を求めすぎる企業は、むしろ新しい考え方を持った優秀な人材を雇い、異なるやり方を試してもらったほうが良いのではないでしょうか。長期的にはより劇的な変化が起こると思います。
もし、コパイロットがエンジニアの生産性を向上する世界や、誰でも簡単に生成AIツールを使ってUIをデザインできる世界、あるいはAIを通じて市場の機会を簡単に特定できる世界が実現した場合、プロダクト開発に関連するさまざまな役割の需給バランスが崩れる可能性があります。実際にどうなるか、技術の変化に左右されるため。まだわかりません。
聞き手:同感です。さて、AIプロダクトの日本での開発についてもお聞きしたいです。日本市場での独自の課題や機会について どのようにお考えでしょうか?日本の文化的、または技術的な要素が、米国とは異なる形でAIプロダクト開発に影響を与えうると思いますか?
Kevin:私は日本文化の専門家ではなく、すべてのニュアンスを理解しているわけではありません。少し抽象度は高くなりますが、いくつかの例を挙げてお話ししたいと思います。まず、大きな視点で見ると、AIがテクノロジーや社会のさまざまな側面に広く浸透していく中で、各国や各地域に与える影響はそれぞれ異なると思います。
例えば、データプライバシーを非常に重視する世界とデータプライバシーをあまり気にしない世界との違いはAIの影響でさらに大きいものとなるでしょう。各地域にとっての自然な傾向をAIが増幅する形で 地域の分岐が進んでいくと思います。日本について考えるとき、例として挙げたいのは、日本文化が非常に高いレベルの完璧さを生み出す、という点です。これは日本についてよく知られていることの一つです。例えば、完璧な時計、完璧にデザインされた庭、あるいは完璧に設計された木造建築など、日本はそうした「完璧さ」を非常に得意としています。AIが日本において、ディスラプティブな変化をもたらす可能性は存在します。例えば、これらのモデルがハルシネーションを起こす。つまり完全ではなく、細かい違いを考慮しないため、すべてが同じような結果に見える場合、その結果が、日本文化にとって違和感があれば、人々は「私は完璧さを求めているから合わない」「よりパーソナルで完璧なデザインがほしい」と反応するでしょう。
しかし、もしAIがより完璧さを追求できるツールになれば、世界のトップ10の職人にはなれなくても、上位1%や5%の人々レベルの完璧なものを作り出すことができるようになります。それによって、期待水準が高まる結果、世界全体が日本に少し似てくるかもしれません。たとえば、車の期待水準が「100台に1台が故障する」ではなく、「10,000キロ走行したら故障する」に変わる。つまり、日本車のように、より信頼性の高いものになるかもしれません。これが世界が向かう方向性だとすると、非常にエキサイティングだと思います。テクノロジーと文化が融合する方法について少し考えるヒントとなる一例をご紹介しました。
最後に、日本のプロダクト開発のリーダーに向けて
聞き手:なるほど。インサイトの共有ありがとうございます。インタビューを終えるに当たり、視聴者である日本のプロダクトのリーダーたちに対して、何かメッセージやアドバイスがあれば、ぜひお聞かせください。
Kevin:そうですね。AIについてではなく、事業のスケールについてお話しします。私がBrazeに参画したとき、私たちは8人で一つの部屋にいました。テーブルが足りなかったので、自分でテーブルを作ったりもしました。新しい人が入ってくるたびに、店に行ってテーブルを買い、パソコンを置いて働ける場所を確保していました。今では大企業とは、まだ言えませんが、ずいぶん大きな会社になりました。多くの努力と運のおかげで、ここまで来ることができました。スケールや成長に関する主な教訓は二つです。
一つは プロダクトマネジメントにおいて、もっと自分の直感を信じるべき、ということです。同じ業界の同じ顧客に対して、長年向き合ってきた人が考え抜いた結果には信頼を置くべきです。
本日の視聴者でもあるプロダクトのリーダーの皆さんが、よく直面する問題の一つはチームのプロダクトマネージャーが、より良いアイデアを持っているのか?というポイントだと思います。顧客や自社プロダクト、技術の理解に基づき、自分の考えていることは正しくないかもしれないと感じる機会は必ずあります。そんなときはやってみましょう。自分の頭の中の小さな声をもっと信じましょう。
心配であれば、深く掘り下げてみるべきです。また、強くやるべきだと感じる場合、前回の三回がうまくいったなら、今回もおそらく正しい、その声に耳を傾ける価値があります。人々はプロセスにとらわれすぎ、まるで製品工場にいるかのようになり、時に「人々がこれを求めている」という芸術的側面を失ってしまうことがあります。
もう一つは、常に迅速に行動することです。
私たちがBrazeで努力を惜しまないポイントとして、いかに迅速に意思決定できるか、いかに素早く構築できるか、品質を損なわずに物事を進めることができるか、ということです。顧客はあなたのプロダクトを求めており、またより多くのものを望んでいます。したがって、速度は実際に顧客にとって、とても重要です。迅速に効率的に物事を構築していくことは自分勝手と同義ではありません。私たちはこの領域に着目すべきです。なぜなら、この問題はしばしば文化に関連するからです。いかに高い品質で、迅速に開発できるか。この二つをどう融合させるか、どうバランスを取るかという問いなのです。プロダクトリーダーにとって、非常に重要なテーマだと思っています。
聞き手:ありがとうございます貴重な経験とインサイトありがとうございました。
Kevin:こちらこそ、お招きいただきありがとうございました。