既存顧客とのパートナーシップの重要性が指摘されるなか、顧客が自社に抱く愛着や信頼を高めるための「ロイヤルティマーケティング」の注目度も増しています。
この記事ではロイヤルティマーケティングについて、そのメリットや重要性、企業が意識すべきポイント、関連用語との違い、成功事例までご紹介します。
1. ロイヤルティマーケティングとは
ロイヤルティマーケティングとは、自社と製品に対して顧客が抱く愛着や信頼(顧客ロイヤルティ)を高めて売上を獲得していくマーケティング手法です。既存顧客のファン化を目指す取り組みですが、ブランドイメージの向上により新規顧客の獲得にも効果があることが知られています。
ロイヤルティマーケティングを理解するためには、前提となる「ロイヤルティ」という言葉の意味や関連用語との違いを知っておく必要があります。
1.1 ロイヤルティの意味
ロイヤルティは文脈によって、「loyalty」「royalty」の2つの英単語のどちらかの意味となります。
前者のloyaltyは「忠実」「義理」「誠実」などの意味を持つ言葉です。そこから転じて、ビジネスでは「企業と商品・サービスに対する愛着や信頼と、そこから生まれる離脱のしにくさ(忠誠心)」を表す用語として浸透しています。ロイヤルティマーケティングのロイヤルティとは、こちらのloyaltyです。
一方、後者のroyaltyは「特許や著作権などを使用する際に権利者へ支払う利用料」のことです。ロイヤルティマーケティングとは関連がないため、混同しないように気を付けましょう。
1.2 ロイヤリティとの違い
「ロイヤルティ」と「ロイヤリティ」は発音・表記のブレであり、厳密な違いはありません。時には「Loyalty(ロイヤルティ)」と「Royalty(ロイヤリティ)」と分ける場合もありますが、明確なルールはなく、実際の発音も日本人にはほとんど区別できないほど似通っています。
大切なのは、ロイヤルティとロイヤリティのどちらの表記・発音であっても、文脈から「loyalty」か「royalty」かを見極めることです。本記事で以降に登場するロイヤルティは、忠義や愛着のloyaltyを指しています。
1.3 エンゲージメントとの違い
ロイヤルティと関連して語られる用語に「エンゲージメント」があります。エンゲージメントも複数の意味を持つ言葉であり、分野ごとに以下の通り説明できます。
用語 | 特徴 |
マーケティング分野のエンゲージメント | 顧客が自社や製品に対して愛着を持つ状態、繋がりの強さ |
人事分野のエンゲージメント | 従業員の自社に対する愛着や貢献したいと思う気持ち、信頼関係の強さ |
SNS分野のエンゲージメント | 「いいね」「リポスト(リツイート)」など、SNS上の投稿に対するアクションのこと |
アプリ分野のエンゲージメント | 「継続率」「DAU」「滞在時間」などアプリ内の指標のこと |
マーケティングにおけるロイヤルティとエンゲージメントは似通った概念で、明確な違いはありません。
しかし、loyaltyは「忠誠心」、engagementは「婚約」と元の英単語が持つ意味に差があることから、ロイヤルティは「自社が上となる関係(自社が何かを提供する関係)」、エンゲージメントは「対等な関係(お互いに高め合う関係)」を指すとする考え方もあります。また実務においては、エンゲージメントがSNS上のアクションやアプリ内の指標を指すケースがある点に気を付けておきましょう。
なお、少し複雑ですが、ロイヤルティには「顧客ロイヤルティ」のほかに「従業員ロイヤルティ」があります。こちらは後述します。
2. ロイヤルティマーケティングの重要性
ロイヤルティマーケティングが重要視される理由には、有名な指標である「顧客満足度」が必ずしも高頻度な購買と関連していないことが挙げられます。
顧客満足度は特定の商品・サービスへの評価であり、企業全体への満足度ではありません。そのため、顧客満足度が高くても企業体質などへの不満から再購入を望まない顧客も存在し、その実態を把握できないことが課題でした。一方、顧客ロイヤルティの高いユーザーには自社に対する愛着や信頼があり、ファンとして長期的な購買が強く期待できます。
また、良い口コミを周囲に伝えるなど、新規顧客を増やす役割を担ってくれるのも、ロイヤルティの高い顧客の特徴です。広告費の上昇が負担となる昨今、ロイヤルティマーケティングは、既存顧客のファン化と新規顧客の獲得を低コストに達成できる施策として注目されています。
3. 顧客ロイヤルティとは
続いて、ロイヤルティの種類をもう少し深掘りしていきましょう。
ロイヤルティは大きく「顧客ロイヤルティ」と「従業員ロイヤルティ」に分類できます。顧客ロイヤルティとは、その名の通り、顧客が抱く自社と商品への愛着・信頼のことです。
3.1 従業員ロイヤルティとの違い
従業員ロイヤルティとは、従業員が自社に抱く愛社精神や忠誠心、離れがたさのことです。顧客ロイヤルティとの具体的な違いは以下の通りです。
名称 | 特徴 |
顧客ロイヤルティ | 顧客が自社と商品・サービスに対して抱く愛着や信頼、離れがたさ マーケティング分野でよく使用される。 |
従業員ロイヤルティ | 従業員が自社に抱く愛社精神や忠誠心、離れがたさ 人事・マネジメント分野でよく使用される |
ロイヤルティマーケティングで語られるロイヤルティは、顧客ロイヤルティを指しています。
3.2 顧客ロイヤルティの重要性
顧客ロイヤルティの重要性は、それを高める取り組みであるロイヤルティマーケティングの重要性と同義です。製品の満足度のみに目を向けるのではなく、顧客の自社への愛着を高めれば、ファンとしての継続的な購買を強く期待できることなどを理由に重要視されています。その詳細は以下の記事で解説しています。
>>顧客ロイヤルティの重要性とは?向上させるメリットや顧客満足度との違いについて解説
3.3 心理的ロイヤルティと行動的ロイヤルティ
少し複雑ですが、顧客ロイヤルティはさらに「心理的ロイヤルティ」と「行動的ロイヤルティ」に分けて考えることもあります。
心理的ロイヤルティ:感情面の話。愛着や気持ちそのもの。
行動的ロイヤルティ:行動面の話。継続購入など具体的なアクション。
ひと口に顧客ロイヤルティが高いといっても、「心理的には応援してくれているが実際の購買は消極的」「心理的にはそれほど応援していないが購買は積極的(例:ほかに候補がない消極的継続購入)」など、心理的・行動的ロイヤルティの高低で実態は変わります。ロイヤルティマーケティングの取り組みが計画通りに進まない時には、この違いにも気を配ってみましょう。
4. ロイヤルティマーケティングのメリット
では、あらためてロイヤルティマーケティングのメリットを見ていきましょう。
4.1 リテンションレートの向上に繋がる
ロイヤルティの高い顧客は、愛着や信頼により自社から離れにくいのが特徴です。単なるリピート客は、より優れた商品を見つけると簡単に乗り換えてしまいますが、ロイヤルティの高い顧客は思い入れによって自社に留まってくれます。自社製品・サービスのリテンションレート(顧客維持率)を大きく向上させてくれる存在です。
4.2 客単価の向上を目指せる
ロイヤルティマーケティングによって顧客の自社への愛着が高まると、客単価の向上も期待できます。例えば、化粧水のファンになった顧客が「次は乳液も使ってみようか」と手を伸ばすように、自社の関連製品にも興味を抱いてもらえるためです。「前回の製品の上位版を試してみよう」となるケースもあります。
このような現象はそれぞれ「クロスセル(関連商品の追加購入)」「アップセル(上位商品の追加や乗り換え購入)」と呼ばれています。
4.3 ブランドイメージの向上・強化が図れる
ロイヤルティマーケティングにより自社のファンを増やすことは、外部に向けたブランドイメージの向上・強化にも繋がります。愛着を抱いている熱心なファンの数が、信頼できる企業の証明として機能するためです。また、顧客のロイヤルティを高める施策を検討する過程自体が、ブランドとしての魅力を強化するプロセスになるともいえます。
4.4 口コミによる拡散が期待できる
SNSの広がりもあり、近年は口コミ効果の重要性が増しています。従来は家族や友人など限られた相手にのみ伝わっていた口コミが世界中の人の目に触れるようになったためです。「あの企業の製品にはこのような魅力がある」「継続的に利用していると特別なプログラムを受けられる」など、ロイヤルティの高い顧客がSNSに投稿してくれれば、コストのかからない優れた宣伝となります。
5. ロイヤルティマーケティングの進め方やポイント
続いて、企業がロイヤルティマーケティングを成功させるための進め方&ポイントを見ていきましょう。
5.1 ロイヤルティの数値化・現状の把握
最初に行うべきは、ロイヤルティの数値化と現状の把握です。「NPS®」(友人や知人にどの程度勧めたいと思いますか?と0~10の数値で質問する指標。数値が大きいほど勧めたい意思があることを意味する)やお客さまの声のテキストマイニングなどを用いて、既存顧客のロイヤルティとその周辺情報をデータとして把握しましょう。
分析したい要素は多岐にわたりますが、少なくとも以下は明らかにしておくべきです。
ロイヤルティの高い顧客・低い顧客の総数
属性別のロイヤルティの高低(例:年齢、家族構成、趣味嗜好など)
主要な役割を果たしている顧客接点
顧客が魅力に感じていること、不満に感じていること
顧客が今後期待していること
5.2 目的の明確化・KPIの設定
現状を確認した後は、自社に適した目的の明確化が必要です。ロイヤルティマーケティングは顧客ロイヤルティを高めるためのものですが、その先の目標は企業ごとに異なります。「解約率を下げたい」「購買量は多いがロイヤルティの低い顧客をファン化したい」など、主要な目的を定めましょう。
このとき、前者であれば「1年後までにリテンションレートを○%高める」、後者なら「NPS®の推奨者グループ(ロイヤルティの高い顧客)の割合を○%向上させる」など、数値目標としてKPIを定めることも大切です。
KPIの重要性や選定に関しては、以下の記事もあわせてご確認ください。
5.3 プログラムを決める
目標とKPIを定めた後は、それを達成するためのプログラムを検討します。
通常、ロイヤルティマーケティングでは、顧客の購入金額などに応じて「ハードベネフィット」「ソフトベネフィット」と呼ばれる2種類の特典を与え、ロイヤルティを高めていきます。
名称 | 特徴 |
ハードベネフィット | 割引クーポンやポイント、記念景品など、金銭的な恩恵を与える特典。 |
ソフトベネフィット | 特別なキャンペーンやイベントへの招待など、金銭ではない特権を与える特典。 |
月額サービスの解約率を下げるためなら「1年間の申し込みで2ヵ月分無料」としたり、購入金額の多い顧客をファン化するためなら「新商品を先行して試せる限定キャンペーン」に招待したりと、ふさわしいプログラムはさまざまです。
ロイヤルティプログラムの種類や事例は以下で解説しております。
>>ロイヤルティプログラムを成功させるには-種類やメリット・注意点についても徹底解説
5.4 施策の実行
自社に最適なロイヤルティプログラムを決定できたら、いよいよ施策を実行していきましょう。実践にあたっては、一部の部門や人員だけではなく、社内全体で「ロイヤルティマーケティングに取り組む」という共通意識を持つことが大切です。共通意識が不足していると、「商品発送までは丁寧なのに購入後のカスタマーサポートは…」などといった印象を与えてしまい、良質な顧客体験が途切れてしまう可能性があります。
5.5 効果の検証・改善
ロイヤルティマーケティングの実行後は、設定したKPIを元に効果を測定し、施策をさらに改善していきます。顧客との関係を深め長期的な付き合いを目指すロイヤルティマーケティングは、一度挑戦して終わりでは意味がありません。再びNPS®や顧客の声を集め、新たな目標とそのための施策を検討し…、とPDCAサイクルを繰り返すことで真価を発揮します。
6. ロイヤルティマーケティングの成功事例
ロイヤルティマーケティングの成功事例もぜひ見ておきましょう。
6.1 事例1
オーストラリア最大のカフェチェーン「The Coffee Club」は、Brazeを活用してロイヤルティマーケティングに成功した企業です。
年間4,000万人以上の来店客がいる同企業では、実店舗型ビジネスにありがちなデジタル化の遅れによりロイヤルティの高い顧客に個別のアプローチができず、十分な収益を上げられていないことが課題でした。
そこで、解決策としてBrazeを導入。顧客のセグメント化と、セグメントごとに最適なメッセージを送る仕組みを活かし、店頭で使える特別割引クーポンの配布を開始しました。
結果として、半年後にはロイヤルティ会員からの売上が35%も増加するなど、確かな成果を手にしています。
>>The Coffee Club、クロスチャネルアプローチでロイヤルティ会員の売上が35%増加、アプリ評価も向上
6.2 事例2
有名ハンバーガーチェーン「バーガーキング」は、Brazeを活用してロイヤルティプログラムの盛り上がりと売上の拡大を実現しています。
もともとバーガーキングでは、利用金額に応じたポイント付与や限定オファーの受け取りができる「Royal Perks」と呼ばれるロイヤルティプログラムを提供していました。今回はその勢いを加速させるために、プログラムの一部として自社アプリ内ゲーム(お得な割引クーポンなどを獲得できるレースゲーム)を用意。クロスチャネルなアプローチができるBrazeの特徴を活かし、メール・プッシュ通知・アプリ内メッセージなどからユーザーにゲームをプレイするように宣伝しました。ゲーム結果に応じた割引クーポンの配布も、Brazeを経由してユーザーがプレイ終了時にそのまま受け取れるように工夫しました。
結果、本ゲームは1日あたり平均2万6,700回もプレイされるなど、ロイヤルティプログラムの人気の拡大に成功。加えて、ゲームをプレイした方の約75%が1日以内にバーガーキングで購買を行っており、ロイヤルティプログラムからの売上も確保しています。
>>バーガーキングが、ゲーミフィケーションを通じて購入頻度を19.5%増加させた方法
7. ロイヤルティマーケティングを成功させるにはBrazeの活用を
最後に、ロイヤルティマーケティングの成功に役立つ具体的な手段として、Brazeの活用もご検討ください。
Brazeは直感的な操作が可能なマーケター支援用のITソリューションです。顧客のセグメント化(属性・行動などによるグループ化)やセグメント別に最適化されたアプローチなど、パーソナライズされたマーケティングキャンペーンを支援します。
ロイヤルティマーケティングであれば、例えば一定以上の購入金額など特定の条件に当てはまる顧客のみに特典をプッシュ通知でお知らせし、その結果(クリック数、コンバージョンなど)を素早く数値で計測することも可能です。「どこからロイヤルティマーケティングに取り組めば良いのか分からない」という場合にも、過去の事例を交えて最適な解決策をご提案します。
Brazeの詳細やデモ版のお問い合わせはこちらから。
>>お問い合わせ
8. まとめ
マーケティングにおけるロイヤルティとは、顧客が自社と製品・サービスに抱く愛着や信頼、離れがたさを指し、顧客ロイヤルティとも呼ばれます。ロイヤルティマーケティングは、その顧客ロイヤルティを向上させ、顧客に長期的に自社のファンでいてもらうためのマーケティング手法です。
ロイヤルティマーケティングを達成するためには、顧客を細かくグループ化し、それぞれにふさわしいパーソナライズされた施策を考えることが欠かせません。その具体的な手段として、Brazeの活用をぜひご検討ください。