マーケティングオートメーションの成否を左右するのがシナリオ設計です。適切なシナリオは、見込み顧客への最適なアプローチのタイミングや内容を明確にし、自動化させるのに役立ちます。
この記事では、マーケティングオートメーションのシナリオの特徴と目的、作成方法や重要ポイント、注意点をご紹介します。
1. MA(マーケティングオートメーション)とは
マーケティングオートメーション(MA)とは、企業のマーケティング活動を自動化する仕組み、またそれを叶えるITツールのことです。見込み顧客(リード)の発掘から、購買意欲の熟成による購入・商談化までの流れをパターン化し、効率的に成約を獲得するために活用されます。
例えば、メルマガからECサイトにアクセスした顧客に、商品の魅力をさらに深掘りしたメールを自動送信。それでも購入に至らなかった顧客には、1週間後に限定割引クーポンを再び自動送信するなど、任意の条件に沿ったアプローチを自動で行えます。業務の属人化を防ぐためにも役立つため、多くの企業が注目しています。
マーケティングオートメーションの具体的な機能や導入メリットなどについては、以下の記事も併せてご確認ください。
>>マーケティングオートメーション(MA)とは?基本機能や導入メリット・選び方を紹介
2. MA(マーケティングオートメーション) のシナリオ設計とは
マーケティングオートメーションのシナリオ設計とは、顧客が自社製品と出会い成約に至るまでのプロセス(カスタマージャーニーマップ)を念頭に、自動化するアプローチとその実行条件を決めていく作業を指します。マーケティングオートメーションでは、この見込み顧客を成約まで導く一連の流れをシナリオと呼びます。
前述のメルマガの例でいえば「メルマガからECサイトを訪れたとき」「ECサイト訪問後、1週間が経過しても購買していないとき」といった実行条件と、具体的なアプローチ内容(メールの文章や割引クーポンの詳細など)を定める作業です。
3. シナリオ設計の目的や必要性
シナリオ設計を行う目的は、マーケティングオートメーションを十全に機能させ、見込み顧客を逃すことなく自社の収益に結びつけるためです。
マーケティングオートメーションは強力なツールですが、その成果は自動化するアプローチの内容と実行条件に左右されます。よいシナリオがあれば、見込み顧客の購買熱や感情までを考慮した質の高いアプローチを自動化できます。しかし、シナリオが適切でない場合、見込み顧客の反感を買い、かえって成約を逃してしまうかもしれません。
また、シナリオ設計の過程では、客観的なデータから自社製品が想定すべきターゲットや顧客接点の再確認を行います。そのため、ビジネスの一つの理想とされるデータドリブンな経営に近づける副次的な効果も期待できます。
4. シナリオ設定の手順
では、マーケティングオートメーションのシナリオ設計の手順を見ていきましょう。
4.1. 目的や目標を明確化する
最初の作業は、マーケティングオートメーションを活用する目的・目標の明確化です。ひと口に見込み顧客を成約に導くといっても、取り扱う製品や自社の体制によりゴールはさまざまですが、例えば以下のようなゴールが考えられます。
ECサイト上での商品購入
公式サイトからの資料請求・トライアル申し込み
見込み顧客のホットリード化と営業担当者への引き継ぎ
最初に目的と目標を定めることで、今後の作業の方向性を一貫させやすくなります。
4.2. ペルソナ(ターゲット)を明確にする
続いて、自社製品・サービスのペルソナ、すなわち想定すべき主要な顧客層の明確化を行いましょう。
ペルソナの明確化にあたっては、既存顧客へのアンケート結果や会員登録情報などの客観的なデータを基準とすることが大切です。小規模な企業に愛用されている製品なのに、トップ企業の部門責任者をペルソナとするなど、現実との乖離が大きいとシナリオが機能しなくなります。
質の高いペルソナを設定する手順は、以下の記事をご確認ください。
>>カスタマージャーニー作成におけるペルソナ設定の方法やポイント・注意点とは
4.3. カスタマージャーニーマップを作成する
続いては、明確化したペルソナをもとにカスタマージャーニーマップ(顧客と自社製品の出会い~購買までのプロセスを図にしたもの)を作成します。フレームワークで最初に大枠を作りつつ、タッチポイントや顧客行動、顧客の思考や感情を設定し、ひと目で把握できる形に視覚化します。
カスタマージャーニーマップの作り方の詳細と注意点は以下の記事をご確認ください。
>>顧客理解を深めるための「カスタマージャーニー」とは?作り方や注意点について紹介
4.4. アプローチのタイミングを決める
カスタマージャーニーマップの作成後は、その内容を確認しつつ、見込み顧客にアプローチすべきタイミングを見極めます。
タイミングを決める際は、マップで設定した顧客の思考や感情が参考になります。「メルマガからECサイトへの訪問時には商品の詳細を知りたいはず」「3度、4度と商品ページを見ている顧客は料金面から二の足を踏んでいるのかも(あと一押しの割引連絡で成約する可能性)」といった想定から、介入すべきタイミングを検討します。
注意点として、アプローチの数は多いほどよいとはいえません。ペルソナや製品の性質を考慮しつつ、見込み顧客が不快に感じにくい効果的な頻度を見つける必要があり、シナリオ設計担当者のセンスが問われます。
4.5. 具体的なコンテンツ内容を作成する
アプローチタイミングとともに、具体的なコンテンツの内容も考案します。内容には、見込み顧客が抱えている悩みやニーズ(介入すべきタイミングだと決めた理由)を満たせるものを設定します。以下はその一例です。
商品について詳しく教えてほしい:PR動画や詳細資料の送付、セミナーや体験イベントへの招待
商品を実際に使ってみたい:トライアル版や初月無料クーポンの紹介
価格面から購入を迷っている:期間限定割引クーポンの連絡、お得な下取りキャンペーンや金利の優遇された分割払いの提案
4.6. アプローチ方法(チャネル)を決める
シナリオ設計では、タイミングとコンテンツ内容に合わせてアプローチ方法(チャネル)も選定します。活用できるチャネルは多岐にわたりますが、ここでもペルソナの視点に立ち、最適な手段を見つける必要があります。以下はシナリオ設計におけるアプローチ方法(チャネル)の一例です。
スピード感、リアルタイム感を重視すべき:プッシュ通知
営業らしさを抑えたカジュアルな連絡が◎:メールやSNSのDM
高い購買熱に応えたい:電話連絡から訪問営業のアポイント
5. シナリオ設計のポイントや注意点
作成の流れを踏まえたうえで、続いてシナリオ設計におけるポイントと注意点をチェックしていきましょう。
5.1. シンプルな設計にする
マーケティングオートメーションのシナリオは、あまり複雑に設計しないことが大切です。細かく条件を設定しすぎた複雑なシナリオは、それぞれのアプローチの効果の測定が難しくなり、継続的な運用と改善に支障をきたします。
また、複雑すぎるシナリオには、ゴールまでたどり着ける見込み顧客の数が不足し、シナリオが機能しないリスクもあります。少なくとも初回はシンプルな設計から始めることをおすすめします。
5.2. 顧客データの収集・蓄積を行う
シナリオ設計では、カスタマージャーニーマップを参考にアプローチのタイミング・内容・方法を決めます。カスタマージャーニーマップの作成にはペルソナが必要で、そのペルソナを作るためには既存顧客のデータが必須です。
マーケティングオートメーション用のツールは、顧客データを収集して一元管理できる特徴を持ちます。多数の顧客データを蓄積し、より精度の高いペルソナやシナリオを生み出せるよう取り組みを進めていきましょう。
5.3. 具体的なデータから基づく仮説を立てる
シナリオやその前提となるカスタマージャーニーマップおよびペルソナの作成では、必ず具体的なデータを参考にしましょう。データを無視した現実に即さない仮説では成果に結びつきにくくなります。
また、アプローチの内容(コンテンツ)についても、成約に至った顧客へのアンケート結果などのデータを反映できると安心です。
5.4. CVに繋がりやすいコンテンツを見分ける
成果の期待できるシナリオを設計するためには、CV(コンバージョン)につながりやすいコンテンツの判断と準備が求められます。
例えば、商品について知りたい顧客に資料を送付すべきだと判断しても、その資料の質が低くてはCVに結びつきません。「顧客の悩みを解決できるアプローチ内容は何か」と「現在用意しているコンテンツはその解決に十分か」の2点を常に意識しておきましょう。
5.5. 定期的な見直しを行う
シナリオは一度作成して終わりではなく、定期的に見直しをしていく必要があります。データを蓄積できるマーケティングオートメーションの特性を活かし、各アプローチの成果を確認しつつ、改善を進めていきましょう。
アプローチのタイミングやコンテンツの調整はもちろん、ときには前提となるペルソナやカスタマージャーニーマップの再検討も求められます。顧客との意思疎通にズレが生まれないよう、現状のデータを踏まえたシナリオに常に更新していくことが重要です。
6. シナリオ設計の例
最後に、マーケティングオートメーションのシナリオ例を2つご紹介します。
6.1. シナリオ設計例1:メルマガから新商品の提案
新商品・サービスの発売時には、まずは自社のファンに購入してもらうことで順調なスタートが切れます。マーケティングオートメーションを活用し、メルマガ登録者へのアプローチを自動化しましょう。
【ペルソナ】
自社のメルマガに登録済みの顧客。特に、過去に新商品の旧モデルや関連アイテムを購入するなど、当該ジャンルに興味のある顧客
(※3ヵ月以内に前モデルを買った顧客は除くなど、直近の購入者は対象から外す。購入時期が悪かったと残念に思われてしまいがちなため)
【タイミングとコンテンツ、アプローチ方法】
新商品の発売1週間前など:メールから新商品の特設ページへのリンクに誘導し、予約購入に結びつける
新商品の発売1ヵ月後:前回のメールを開いたが購買に結びつかなかった顧客に、再びメールから新商品のよい口コミや評判をお知らせ
上記はあくまでも基本形です。ここから、「メールを開かなかった顧客にはSNSやアプリの通知でも連絡」「カートに入れたが決済していない顧客には24時間限定の割引クーポンの配布」など、多様なシナリオを展開できます。
6.2. シナリオ設計例2:失注案件のフォロー
問い合わせや交渉までは至ったものの失注した案件の再獲得に向けたフォローも、マーケティングオートメーションで半自動化できます。
【ペルソナ】
過去に自社製品・サービスの問い合わせや交渉を行った担当者。失注の理由が当時の予算やタイミングなど、時間による解決可能性があるケース。
【タイミングとコンテンツ、アプローチ方法】
失注から半年後:メールでその後の状況を尋ねつつ、お問い合わせ窓口や商談アポイントのリンクに誘導
失注後から1ヵ月後以降、再び自社サイトにアクセスしたとき:上記と同じメールでのお伺い。あるいは、急ぎで再検討している可能性を想定し、電話で困りごとはないかをヒアリング
7. まとめ
この記事では、マーケティングオートメーションのシナリオについて、概要や目的、必要性、作成の手順や知っておきたいポイント、注意点をご紹介しました。
シナリオはマーケティングオートメーションの根幹となる存在であり、その成果を大きく左右します。客観的なデータから各要素を定めていくことなど、ご紹介した内容を参考に、自社製品に最適なシナリオを見つけていきましょう。