企業が新たな技術ソリューションを必要とする際、共通のジレンマに直面します。それは、ソリューションを買うか、自社で開発するかという選択です。このどちらのアプローチにも、利点があります。自社で開発すれば、ビジネスニーズに完全合致したカスタマイズが可能になります。一方、サードパーティのソフトウェアを購入すれば、実績のあるスケーラブルなソリューションが迅速に利用できます。この選択は、企業の優先事項、リソース、そして時間的な制約に大きく左右されます。
もし自社開発を選択した場合、まずは利害関係者を集めて適切なリソースの優先順位を決めることが必要です。一方、既製品を購入する場合も、利害関係者の合意を得ることが重要です。そして、購入後こそが本当の仕事の始まりといえるでしょう。
単にツールを導入することがゴールではなく、成功の鍵は、どれだけ効果的に広範なエコシステムと統合し、組織全体でサポートできるかにかかっています。
私は、Miroのスタッフエンジニアをしているトム・ハワードです。
これまでエンジニア主導の企業で複数の職務を経験してきました。その中で実感したのは、技術系の関係者がツールやサービスの導入を、自分たちが開発するプロダクトや機能と同じくらい真剣にサポートすることの重要性です。本記事では、「自社開発のみ」にこだわる姿勢がもたらすデメリットと、技術チームがサードパーティツールを活用して成功を収める方法についてお話しします。
自社開発のみの考え方がもたらすリスク
一見すると、社内で製品を開発することが、必要なものを正確に手に入れる最良の方法のように思えるかもしれません。しかし、そのツールや機能が会社の中核となるビジネスと直接結びついていない場合、隠れた(あるいはそれほど隠れていない)コストにつながる可能性があります。
チームが陥りがちな問題:
「一度きりの投資」と考えるリスク
ソリューションを開発することを一度きりの投資と誤解しがちですが、ビジネスのニーズが変化する中で、これは長期的なコミットメントとなり、チームやビジネスがその負担を受け入れる必要があります。コア業務からのリソースの分散
社内ツールの開発に費やされる時間は、ビジネスの中核となる重要な取り組みに集中する時間を消費します。スケーラビリティの限界
自社開発のソリューションは、ビジネスの変化するニーズに簡単に対応できない場合があります。一方で、サードパーティのツールはより汎用的に設計されているため、新しい要件に適応しやすいことがあります。維持管理の負担
内部ツールのメンテナンスやトラブルシューティングは、長期的にリソースを消耗させ、イノベーションのスピードを鈍化させます。業界標準への遅れ
外部ベンダーは、他のサードパーティシステムとの即時統合など、業界標準や新しい技術を継続的に提供していますが、内部チームはその技術に追いつくことが困難といえます。
信頼できるサードパーティのツールを選ぶことで、専門家が提供する技術と知見を活用しながら、チームが重要なことに集中し、コアビシネスの分野でイノベーションを起こすことができます。
ツールの強みと限界を理解する
とはいえ、ソフトウェアを購入することが万能な解決策というわけではありません。企業がよくするミスは、ツールの機能を十分に学ばず、ソフトウェアをどう活用して自社のニーズを満たすかを把握しないことです。サードパーティソリューションを導入しても、ツールが「できること」と「できないこと」を理解していなければ意味がありません。
そのため、導入の初期段階で、ツールの機能、制限、統合性をしっかりと理解するための時間を投資することが重要です。ドキュメントを熟読し、すべての機能を試し、ベンダーのサポートチームと連携をしましょう。ツールがどのように使われるべきかを理解し、臨機応変にツールに合わせた内部のワークフローの調整が大切です。ツールに逆らえば、不要な摩擦や悪影響を引き起こし「四角い釘を丸い穴に押し込む」ような、無理な運用になりかねません。
サードパーティツール投資の最大化
サードパーティツールの導入を決定する前に、まずは主な利害関係者間で十分なコミュニケーションをとることが重要です。そこで特に重要になるのが、エンジニア部門です。ツールを既存のエコシステムに統合するためのインテグレーションを構築する必要がある場合、エンジニアの協力が不可欠です。ツールを購入した後で、エンジニアが実装の時間や意欲を持っていなければ本末転倒です。
すべての関係者を巻き込む
最善のアプローチは、購入決定のプロセスに関係者全員を早い段階で巻き込み、懸念点を共有しながら課題解決をしていくことです。購入後にその事実を知らせるのではなく、事前に合意をしてもらうことが望ましいです。
エンジニア部門を早期に巻き込むことで、潜在的なベンダーの評価プロセスに参加してもらえます。具体的には、以下の技術的要素を評価することが重要です:
APIの可用性と品質
ツールのスケーラビリティとパフォーマンス
システム間のライブラリ互換性
例えば、必要なプログラミング言語に対応するSDKがない場合や、既存のライブラリと互換性がない場合、後々大幅なコストが発生する可能性があります。
ベンダーとのコンタクトポイント(PoC)の整理
効果的な方法の一つとして、ベンダーとPoCを整理することです。一定期間ツールを試用し、製品のパフォーマンスを確認できる環境を構築します。ただし、PoCを成功させるためには、ツールが解決することが期待される問題を明確に定義した複数のユースケースをPoCに持ち込みます。例えば、以下のような具体的なユースケースをいくつか用意し、それに基づいてツールの性能を評価します:
ツールがどの程度問題を解決できるのか
特定の要件を満たす能力
また、可能であればベンダーからのサポートを活用し、最適なソリューションへと導いてもらうことも効果的です。
投資を最大化するための次のステップ
購入を決定したら、次はその投資を最大限に活用するステップに進みます。単にツールを導入するだけでは十分ではありません。成功の鍵を握るのは、実装方法とサポート体制です。技術チームは、新しいツールがビジネスにしっかりと適合し、期待通りの価値を提供できるようにする重要な役割を担っています。
慎重かつ的を絞った導入サポート
サードパーティツールの統合において、大きな責任を担うのが技術チームです。タスクではなく、プロジェクトとして扱うことが重要です。さまざまなシナリオでツールをテストし、運用に支障をきたす前に潜在的な問題を特定することで、早期に課題に対応できます。このアプローチにより、長期的な成功を確実にし、後々ツールの制約に悩まされることを防げます。
また、ドキュメント化されていないショートカットや「ハック」を避けることも重要です。こうした手法は短期的には便利に思えるかもしれませんが、最終的には不安定さや余分な保守作業を引き起こしかねません。ツールと協調し、ツールに逆らわないようにすることを常に心がけましょう。
柔軟性と適応力を受け入れる
私は技術担当者として、すべてを完璧にこなせるソフトウェアは存在しないことを実感しています。ツールの制約が重すぎる場合、新しいソリューションを見つける必要があるかもしれませんが、大抵はツールの可能性を最大限に引き出すために業務プロセスを調整するだけで十分です。
ソフトウェアが十分に機能していないと感じたときには、すぐに新しいツールを探すのではなく、「プロセスを調整することで、ツールをより有効に活用できるか?」と自問することが重要です。小さな変更が大きな成果をもたらし、他のツールに切り替える手間やコストを回避できる場合もあります。
また、自社の課題が特有のものだと考えやすいですが、実際には他の組織でも同様の問題が発生していることはよくあります。複数の組織と協力しているサードパーティは、こうした課題を特定し、自社製品内で解決策を提供している可能性があります。
必須機能と「あると良い」機能を区別する
ソフトウェアを選定する際、欲しい機能のリストが長くなりがちです。
しかし、成功に本当に必要な機能は限られています。すべての条件を満たすツールを追い求めると、最終的に選んだツールに満足できなかったり、選定が終わらないまま時間を浪費してしまう可能性があります。
また、追加費用がかかるオプション機能もありますが、利用しない機能を早まって購入して無駄なコストがかかったり、その費用を正当化するためにビジネスにとって有益でない機能を無理に使おうとしてしまうこともあります。
関係者と明確な会話を行い、評価段階から実装にかけて、優先すべき目標を明確にすることが大切です。本当に影響を与える機能に集中することで、技術スタックを複雑にしすぎることを避け、選択したツールが実際に価値を提供することを保証します。
結論
サードパーティツールの購入決定は、あくまで始まりに過ぎません。成功は、ツールをいかに統合し、サポートし、ビジネスに適応させるかにかかっています。自社でソリューションを構築することには魅力がありますが、既存の専門知識とリソースを活用することで、より迅速に価値を提供できることが多いです。完璧なツールは存在しませんが、適切なアプローチを取ることで、購入したソフトウェアの潜在能力を最大限に引き出し、持続的な価値を提供することができます。
構築(Build)と購入(Buy)のジレンマについてさらに知りたい方は、Jamie Doheny氏の「技術リーダーの視点から見る「Build vs Buy」をぜひご覧ください。ビジネスに最適な意思決定を行うための具体的なインサイトを得られます。