ビッグデータの活用やDXの重要性が指摘される中、一躍注目されているのが「予測分析」です。
この記事では、予測分析の特徴や仕組み、企業視点でのメリットや代表的な手法、活用事例をご紹介します。
1. 予測分析とは?
予測分析とは、過去のデータから将来を予測する統計分析全般のことです。非常に定義の広い言葉で、手計算による単純な分析から機械学習による高度な予測まで、そのすべてが該当します。
予測分析のイメージを掴む一助となるのが、総務省統計局による統計の分類です。それによれば、統計とは以下の3種類に大別できるとされています。
【総務省統計局による統計の3分類】
名称
名称 | 特徴 |
国の実態をとらえるための「統計」 | 人口や土地面積など、国家運営にまつわる数値をありのままに記録するため統計 |
大量の事象をとらえるための「統計」 | 死者数から疫病の発生を突き止めるなど、データに潜む因果関係を見つける統計 |
確率的事象をとらえるための「統計」 | 疫病の罹病率や死亡率など、ある物事の確率を推測する統計 |
(出典:総務省統計局「統計の歴史を振り返る 統計の3つの源流」を参考に作成)
このうち、大量の事象と確率的事象をとらえる統計を組み合わせたもの、つまり、物事の因果関係とその確率を見つける統計を予測分析と呼びます。
1.1. 予測分析の歴史
定義の広い予測分析はその歴史にも諸説ありますが、その一つに、1688年ごろにエドワード・ロイドという人物が開店したコーヒー店「Lloyd’s Coffee House」に端を発したとする説があります。
波止場の近くにあり多くの船乗りが訪れるこのカフェは、海上保険に関する交渉の場として開放されていました。ロイドは海難事故や船舶の入出港などの情報を人々に提供し、保険の引受希望人と加入希望者はこの情報を分析して交渉に臨んだといわれています。
しかし、本格的に予測分析が日の目を見たのは、計算機(コンピューター)や情報処理技術が発展したここ数十年です。特に1940年代の電子式計算機の登場など、大量のデータを素早く処理できる機械・技術が生まれたことで実用的な手法になったと考えられています。
1.2.予測分析の重要性
ビジネスにおける予測分析の重要性をひと言で表すとすれば、将来の高精度な予測から自社の利益を最大化し、リスクを最小限にできることです。
予測分析で得られる推測は、企業の意思決定の指針となります。それにより、誰かの直感といった曖昧な要素を排除し、客観的な数値を基にした企業運営=「データドリブン経営」が実現します。政府がその必要性を叫ぶDXの推進にもつながり、競合他社に対するビジネス上の競争力を確保できます。
2. 予測分析の仕組み
予測分析の仕組みとして代表的なモデル5種類の概要をご紹介します。各モデルの名称、分類、意味合いは団体や研究者により異なるケースも多いため、参考としてご確認ください。
2.1. 分類モデル
分類モデルは、過去のデータをその特徴に応じて文字通り分類する仕組みです。特に「○○の要素を持つデータはカテゴリA、××の要素を持つデータはカテゴリB」などと、あらかじめ設定された条件に応じて分類する方法を指します。事前に条件を設定しない場合は、後述するクラスタリングモデルに該当します。
2.2. 予測モデル
予測モデルは、与えられた過去データから結果を推定するための統計モデルを指します。線形回帰モデルやニューラルネットワークモデルなどの手法が代表例です。冒頭の総務省統計局の分類でいう「確率的事象」をとらえるための統計に当たります。
2.3. クラスタリングモデル
クラスタリングモデルは分類モデルと同じく、特徴に応じてデータをグループ分けする仕組みです。ただし、分類モデルは事前に組分けの条件を設定するのに対して、こちらは分析中にデータの特徴からグループの分け方を見つけます。
クラスタリングモデルは、各データがそれぞれ1グループにしか属さない「ハードクラスタリング」と、複数のグループに所属できる「ソフトクラスタリング」の2種類に大別できます。ソフトクラスタリングでは、そのデータが各グループに所属する確率も一緒に求める形が主流です。
2.4. 時系列モデル
時系列モデルは、データを時間の流れに沿って並べ、全体の長期的な傾向や、周期的に発生するイベント、不確定要因などを明らかにしていく分析です。例えば、過去の株価とその関連要因から将来の株価を予想するような取り組みを指します。
2.5. 異常値モデル
異常値モデルは、外れ値(ほかのデータから著しくかけ離れた数値)や異常値に着目し、正常な動きとは異なるケースを見つけ出す仕組みです。通常の(正常な)動作の情報も一緒に与えて、外れ値との差異を見ることで異常を検出します。例えば、保険会社が異様に保険金申請の多い事業者を検出するような場合に活用されます。
3.予測分析を行うメリット
企業が予測分析を行うメリットは、高精度な予測を基にした意思決定やアクションができることに尽きます。特に以下の3分野では大きな恩恵が得られます。
マーケティング
市場動向や購買行動の予測により、その時々、あるいは一人ひとりに適したマーケティングを提供できる。
業務改善
在庫管理、施設稼働率、人員配置といった企業活動を予測分析の結果から最適化することで、限られたリソースを最大限に活用できる。
セキュリティ
近年のサイバー攻撃の傾向を分析して対策を施すなど、現代に欠かせないデジタルセキュリティの強化を目指せる。
4. 予測分析の手法
続いて、ビジネスシーンにおける代表的な予測分析の手法(活用方法)をご紹介します。
4.1. コンバージョンの予測
予測分析により、企業は顧客の購買行動の時期や量を高精度に推測できるようになります。何もしなくても一定の購買が期待できる時期にはプロモーションを控え、谷間となるタイミングで割引キャンペーンを打つなど、マーケティング活動の最適化が可能です。
また、コンバージョン率の高低を基準に顧客セグメントを行うことも代表的な手法の一つです。
4.2. リスクの軽減
前述の異常値モデルや時系列モデルによる予測分析は、企業活動のリスク軽減に役立ちます。例えばクレジットカード会社では、顧客の信用スコアを導き出して貸し倒れのリスクを予測する行動が浸透しています。ほかにも、今後自社の売り上げが減少しうる時期や要因を予測してそれに備えるなど、その活用方法はさまざまです。
4.3. オペレーションの改善
コンバージョン率の予測は、在庫管理をはじめとするオペレーションの改善に結びつきます。コンバージョン率の高い時期を見据えて在庫を大量に準備したり、反対に購買が期待できない時期には減らしたりと、生産計画を最適化できます。また、店舗の繁盛するタイミングを分析してスタッフの出勤スケジュールを定めるなどして企業活動の効率化を進められます。
4.4. 顧客セグメント
分類モデルやクラスタリングモデルに代表されるように、特徴に応じた顧客のグループ分け(セグメント化)は、予測分析が特に得意とする作業の一つです。近い将来にコンバージョン率が高まると予測される顧客には新商品の情報を届けるだけに留め、関心の低い顧客には大型割引クーポンを配布するなど、パーソナライズされたマーケティングに重宝します。
Brazeでも、AIを活用した顧客のセグメント化機能を提供中です。
Brazeの購買予測AI
5. 予測分析の活用事例
最後に、職種・業界別の予測分析の活用事例をご紹介します。
5.1. 小売業界
小売業界では、コンバージョンの予測が実用レベルで活用されています。例えば、北九州を中心に活躍するホームセンター「グッデイ」では、ある園芸用殺虫剤の需要予測に予測分析を活用しました。過去の販売実績や気象情報などのデータを与えた結果、予測402個の販売に対して実売413個と、高精度な推測に成功しています。
5.2. 金融業界
金融業界では、信用リスクの分析に予測分析が活用されています。例えば、仙台を中心に展開する七十七銀行では、三井住友銀行とJSOLが開発した業況変化検知システム「FinCast」を導入しています。このシステムは、取引先企業の入出金の動きをAIが分析し、相手の業況変化をいち早く察知するものです。
5.3. 営業・マーケティング分野
営業・マーケティング分野では、購買率・成約率の高低によりアプローチ方法を変えるなど、一人ひとりに最適化された宣伝の実現に予測分析が用いられています。
例えばBrazeでは、AIが顧客の購買可能性を予測し、その大小に応じて3グループに分類する「可能性スコア」と呼ばれる機能を提供しています。相手の購買熱に合わせたメールや通知を送ることで、従来よりも顧客からのリアクションが良いマーケティングが実現できると好評を博しています。
6. まとめ
この記事では予測分析について、特徴や代表的なモデル、メリット、ビジネスにおける手法、活用事例をご紹介しました。
過去のデータから将来を見通す予測分析は、ビッグデータ活用の重要性が叫ばれる今、企業に欠かせない施策となりつつあります。高精度な予測を経営判断の指針にできれば、企業運営の一つの理想とされるデータドリブンな経営も実現可能です。
予測分析を導入する具体的な手段として、ぜひBrazeの活用をご検討ください。