リテールメディアは、小売企業にとっては新たな収益の柱に、また広告主企業にとっては「Cookie廃止」への備えとなるものです。
この記事では、リテールメディアの概要や、注目される理由とその背景、国内外の活用事例、課題と注意点などをご紹介します。
1. リテールメディアとは
リテールメディアとは、小売企業が所有する顧客情報と媒体を用いて広告を出す仕組みのことです。実店舗のデジタルサイネージで流れるPR動画から、ECサイトの検索画面に出る商品広告まで、オフライン・オンラインを問わず該当します。
リテールメディアには小売企業・広告主企業・消費者と3者が関係するため、一見複雑に見えます。システムを簡潔に表現すると以下の通りです。
STEP1:小売企業が、広告主企業に顧客情報と媒体(出稿スペース)を提供する
STEP2:広告主企業が、小売企業の媒体から出稿し、広告料も支払う
STEP3:消費者が、広告を目にして購買行動を行う
STEP4:小売企業が、出稿の結果(購買行動などの情報)を広告主企業に伝える
STEP5:広告主企業が、結果を元に新たな広告を検討する(STEP2へ戻る)
小売企業が出稿作業も担ったり、外部の媒体(SNSや検索エンジンの広告)も利用したりするケースもありますが、基本形となるのは上記です。小売企業は新たな収益を確保でき、広告主企業は小売企業の持つ顧客情報や媒体を活用できる点に特徴があります。
2. リテールメディアが注目される理由や背景
リテールメディアが注目される理由と背景には、次の2点が挙げられます。
オンラインの購買行動の浸透
Cookie規制などのプライバシー問題への対策
2.1. オンラインの購買行動の浸透
スマートフォンの普及や生活様式の変化もあり、近年は消費者の間でオンラインによる購買行動が浸透してきました。
総務省統計局の「家計消費状況調査年報(令和4年)」によれば、2022年にネットショッピングを利用した世帯(2人以上)の割合は52.7%。2012年の同割合は21.6%であり、ここ10年間で急激に増加しています。
リテールメディアを含むオンラインの広告・マーケティング施策は、いまや大多数の企業にとって軽視できないものです。
出典:総務省統計局「家計消費状況調査年報(令和4年)」より数値引用
2.2. 「Cookie規制」などのプライバシー問題への対策
一方、近年は企業による個人情報の利活用が問題となり、消費者のプライバシー保護に関するルール整備が進んでいます。
オンラインマーケティング分野で特に問題となるのがCookie規制です。Googleが2024年後半に3rd Party Cookieの段階的廃止を予定しているなど、近い将来、Cookieに依存した広告手法は利用できなくなると懸念されています。
リテールメディアでは、1st Party Dataと呼ばれる、小売企業が直接取得するデータを主に利用します。1st Party Dataは信頼性が高く、Cookieにも依存しておらず、取得に際して本人同意も得やすいのが特徴です。このような背景から、リテールメディアはCookie規制後の備えとしても注目されています。
Cookie規制の詳細やその対策については、以下の記事もあわせてご確認ください。
>>Cookie規制とは?起こる影響や対策・注意すべきことを解説
3. リテールメディアのメリット
リテールメディアは、小売企業、広告主企業、顧客・消費者の3者に対して、それぞれにメリットを持ちます。
3.1. 小売企業側のメリット
小売企業側のメリットは、これまでに収集した顧客情報や活用していない広告スペースなどの眠っている資源を収益に変えられる点にあります。
リテールメディアでは、広告主企業から広告料などの報酬を受け取れます。物品の販売以外にも安定した収益を得られるため、小売企業の新しいビジネスモデルになると注目されています。
また、広告主となる取引先と共にプロモーション内容を検討するなど、従来よりも密接な協業を行える点も魅力です。例えば、スーパーマーケットと大手食品メーカーのコラボレーションなどが考えられます。
3.2. 広告主企業側のメリット
広告主企業側のメリットには、小売企業が持つ顧客データから最適な広告を検討できることと、施策の効果を測定しやすくなることが挙げられます。
前述の通り、近年はプライバシー保護に関する諸問題の中で1st Party Dataの価値が高まっています。出所の明瞭な顧客情報を小売企業から共有してもらうことで、時代に即した形でデータドリブンなPRを継続できます。
また、リテールメディアでは一般的に、小売企業から出稿後の結果(詳細な購買行動データなど)の共有も受けられます。従来は小売企業側のみで蓄積されていた顧客のリアルな動きを把握することが可能です。
3.3. 顧客・消費者側のメリット
顧客・消費者側のメリットは、自分の興味がある情報を適切なタイミングや場所で受け取れる点にあります。
例えば、晩ご飯に悩みながらスーパーを訪れ、割引中の魚を吟味している顧客に、デジタルサイネージで美味しい煮付けの作り方のミニ動画を流します。
すぐそばに広告主が販売する調味料も一緒に置いておくことで、プラスアルファの購買へと繋げることもできるでしょう。
4. リテールメディアの活用事例
では、リテールメディアの活用事例を、海外・日本それぞれで見ていきましょう。
4.1. 海外
4.1.1. 事例1
日本でも多くの方が利用する最大手ECサイトを持つある海外企業は、アメリカのリテールメディア市場の約8割を占めているともいわれるほど、同メディアに力を割いています。
同企業のECサイト内で商品を検索すると、通常の検索結果とは別に広告主企業の商品が優先表示されます。サイト内には商品検索画面以外にも出稿用スペースが散りばめられており、豊富な広告収益に繋がっています。
4.1.2. 事例2
世界最大級の売上を誇るあるスーパーマーケットチェーンでは、ECサイトはもちろん、店頭でもリテールメディア化を進めており、店舗内の要所にデジタルサイネージを設置しました。例えば化粧品コーナーで化粧品の使用感を想像させる映像を流すなど、魅力的なPRを実現しています。また、セルフレジの画面に商品広告を出して次回の来店時の購入を促すなど、顧客・消費者を継続して自社と広告主のカスタマーとする施策も実行中です。
4.2. 日本
4.2.1. 事例1
国内の有名コンビニチェーンでも、2019年以降のリテールメディア戦略に合計で約500億円を投資するなど、事業の柱として注力する動きが見られます。
同チェーンでは、レジの上に配置された大型デジタルサイネージと、自社アプリを活かしたリテールメディア戦略を進めています。
例えば「(自社の)唐揚げと(他社の)コーラをセット購入で○○円引き!」などといったキャンペーン広告を表示し、購買意欲を刺激する形です。同社によれば、このようなキャンペーンでは施策実行前よりも約6~7倍の併売率(同時購入率)を記録するなど、すでに成果が上がっています。
4.2.2. 事例2
ある大手ドラッグストアでは、ID-POSデータ(会員IDなどと紐付いた購買情報)に代表されるオフライン情報と、アプリ内広告などのデジタル広告を掛け合わせたリテールメディアを提供しています。
同企業のリテールメディアの特徴は、広告配信後の成果を詳細にチェックできる点です。時間・場所・販売量・一緒に売れた品物などの多様な項目を配信レポートとして確認できるため、広告の内容や出稿のタイミングを改善しやすいと広告主から好評を博しています。
5. リテールメディアの課題や注意点
最後に、リテールメディアの課題と注意点をチェックしておきましょう。
5.1. 十分な予算の確保が必要
リテールメディアを実践するためには、小売企業にはデジタルサイネージの設置やECサイトの構築といった初期費用が、広告主企業には小売企業に対する広告料がかかります。どれほどの費用がかけられるのか、予算の確保はどう進めるのかを事前に検討しておかなければいけません。
5.2. 個人情報の取り扱いに関する知識と準備が必須
リテールメディアは、小売企業が集めた顧客・消費者のデータを広告主企業に提供する形が基本となります。このような外部への個人情報の提供は「第三者提供」と呼ばれ、改正個人情報保護法などの法律によって適切な手段や条件が定められています。
また、法律に反していないとしても、個人データの無許可の提供は顧客・消費者の反感に繋がるものです。データの取り扱い方法や提供の実施に関して丁寧に説明を行い、顧客・消費者の理解と同意を得ることが大切です。
5.3. 過度なリテールメディア化は消費者の反感に繋がる
リテールメディアを進める際には、過度に広告を出しすぎないことにも気を付けましょう。極端に目立つ形でデジタルサイネージを配置したり、目当ての商品を見つけにくくなるほどに検索広告を出したりしては、消費者は不快に感じてしまいます。あくまでも消費者が有益と感じる程度の広告量に抑えることが重要です。
6. まとめ
この記事では、リテールメディアについて、特徴や注目される背景、小売・広告主・消費者それぞれのメリット、活用事例と課題や注意点をご紹介しました。
リテールメディアは、小売企業は新たな収入源、広告主企業はプライバシーに配慮された形での出稿、顧客・消費者は利便性の高さと、それぞれにメリットが得られる仕組みです。Cookie規制などのプライバシー保護ルールが強まる中、この仕組みは今後ますます注目されていくことでしょう。