リテンションマーケティングは、自社のリピーターやファンを獲得するために欠かせないマーケティング手法として、さまざまな企業で取り入れられています。
この記事では、リテンションマーケティングの特徴と重要性、具体的な手法、企業がリテンションマーケティングを成功させるためのポイント、Brazeによる事例などをご紹介します。
1. リテンションマーケティングとは?
リテンションマーケティング(Retention Marketing)とは、既存顧客との関係を維持するためのマーケティング活動のことです。「Retention」は、英語で保持や維持の意味を持っています。
もともとマーケティング活動は「新規顧客の開拓」と「既存顧客との関係強化」の2種類に大別できますが、リテンションマーケティングは後者に当たります。維持と名前が付いていますが、実際に目指すのは「強化」です。メールで割引クーポンを配布し再度の購買を促すなど、既存顧客を自社のファンに育てていく取り組みが例として挙げられます。
2. リテンションマーケティングはなぜ重要なのか
リテンションマーケティングが企業にとって有効な理由には、以下の4点があります。
2.1. 顧客のLTVが向上する
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、ある顧客がその生涯で自社に与えてくれる利益の総額のことです。
娯楽やサービスが飽和しつつある現代では、新規顧客獲得の難易度が高まっており、新たな収益の確保先として、既存顧客のLTVの向上が提案されています。リテンションマーケティングにより顧客と自社が結びつく期間を延ばすことは、LTVを向上させる直接的な施策となります。
LTVの詳細については、以下の記事も併せてご確認ください。
>>LTVの重要性や顧客の定着化を図るために−計算方法や高めるためのポイント
2.2. 売上を獲得する際のコストが安価
既存顧客から売上を獲得するリテンションマーケティングは、施策のコストを安価に抑えやすいのも特徴です。
マーケティング分野では、既存顧客との関係維持にかかるコストは新規顧客を獲得するコストの1/5で済むという「1:5の法則」が知られています。既存顧客はすでに自社の製品・サービスをある程度認知していること、また顧客情報をもとにパーソナライズされた営業活動ができる(不特定多数にアプローチをする必要がない)ことが主な理由です。
2.3. 休眠顧客を掘り起こせる
しばらく購買がない、現在はサービスを利用していないなど、自社から距離を置いている「休眠顧客」の再獲得を狙えるのも、リテンションマーケティングの特徴です。
通常、休眠顧客は、「期待ほどの質ではなかった」「使い方がわかりにくかった」など、何かしらの不満があるために離れています。リテンションマーケティングの過程で不満を分析し、改善策を提案すれば、再び自社の顧客として復帰する可能性があります。
2.4. 顧客の満足度向上・新規顧客獲得が進む
リテンションマーケティングにより顧客満足度を向上させることは、新規顧客の獲得にも寄与します。これは、良い口コミの増加などによる間接的なブランドイメージの向上が集客に好影響を与えるためです。
低コストで収益を確保しやすく、既存顧客との関係強化だけでなく新規顧客の獲得も期待できるリテンションマーケティングは、利益向上の大きな可能性を秘めています。
3. リテンションマーケティングの手法
では、リテンションマーケティングの具体的な手法を見ていきましょう。
3.1. メールマーケティング
もっとも王道ともいえる手法がメールマーケティング、いわゆるメルマガです。クーポンやデジタルチラシ、新商品の情報などを定期的に届けることで、顧客からの自社への関心を維持できます。
購買の翌日に初歩的な使い方ガイドを送り、7日後には応用編をお届けするなど、事前にシナリオを設定しやすいのも特徴です。このような段階的なメルマガは「ステップメール」と呼ばれています。
3.2. SNSマーケティング
顧客に親近感を抱いてもらいやすい手法がSNSマーケティングです。FacebookやInstagramなどに自社アカウントを用意し、例えば「開発こぼれ話」のような身近な社内情報を投稿することで、顧客のファン化を目指します。
新商品のプロモーションなど即時的な宣伝効果を期待する場合には、拡散力の高い外部インフルエンサーに依頼する手もあります。双方向のやり取りが可能な特徴を活かして簡易的なサポート窓口にもできるなど、応用の利きやすい手法です。
3.3. オフラインマーケティング
オフラインマーケティングとは、セミナーやワークショップ、商品発表会など、現実の場で行うイベントを指します。実際に新商品やサービスを手で触れられたり、スタッフに疑問や悩み事を対面で質問できたりと、顧客満足度を大きく向上させやすい手法です。イベントの種類によっては顧客同士のつながりが生まれるケースもあるなど、自社の熱心なファンを獲得しやすい点も優れています。
3.4. プッシュ通知
顧客の端末にメッセージを送るプッシュ通知も、リテンションマーケティングの手法の一つです。事前の許可が必要という制限こそありますが、「リアルタイムで情報を伝えられる」「個人に応じた内容を伝えやすい」「開封・クリックしてもらえる確率が高い」といったメリットがあります。
プッシュ通知は、その特徴から顧客へのパーソナライズされたアプローチに活用しやすく、Brazeでも重要な機能として搭載しています。詳細については以下の記事も併せてご確認ください。
>>プッシュ通知の仕組みや種類にはどんなものがある?メリットや通知ポイントを紹介
3.5. レコメンド
レコメンドとは、顧客の購買履歴やECサイト上の行動(閲覧したページ、滞在時間など)を基に、おすすめの商品・サービスを提案する機能です。同時購入してほしい関連アイテムを伝える「クロスセル」や、購入済み・購入検討中の品物の上位モデルを提案する「アップセル」などの手法に活用されます。ユーザーの満足度と顧客単価の上昇を同時に狙えるのが特徴です。
3.6. カスタマーサポート
カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせに対応する、いわゆる「お客さま窓口」です。既存顧客のトラブルを解消でき、満足度を高められることから、広義のリテンションマーケティングの一種とみなされます。
具体的な方法としては、公式サイトへの問い合わせフォームの用意や、電話番号&メールアドレスの公開が一般的です。最近では軽度の質問に対応する簡易窓口としてSNSを利用したり、24時間素早く返答を行えるチャットボットを活用したりする企業も増えています。
3.7. カスタマーサクセス
カスタマーサクセスはカスタマーサポートと似ていますが、こちらは相談を待つのではなく、自社から能動的に行動し顧客の悩みを解消すること、またその部門を指します。顧客に電話やメールで不明点がないかを尋ねたり、自社サービス内のユーザーの行動履歴から不満や疑問点を分析したりします。
カスタマーサクセスはほかの手法と重複する部分もありますが、顧客満足度の向上を主な目的としているのが特徴です。
4. リテンションマーケティングを成功させるポイント
続いて、企業がリテンションマーケティングを成功させるためのポイントをご紹介します。
4.1. 顧客のセグメント化を行う
特に大切なのは、顧客のセグメンテーションを丁寧に行うことです。リテンションマーケティングの魅力である、「(相手が既存顧客であるために)会員登録情報や過去の購買履歴が手元にあること」を活かすためには、データから顧客を適切に分類し、それぞれに最適化されたアプローチを考案する必要があります。
4.2. 適切なKPIを設定する
施策の効果を正しく把握するためには、事前にKPI(重要業績評価指標)を設定することも欠かせません。リテンションマーケティングに活用できるKPIには、以下が挙げられます。
指標名 | 概要 |
リテンションレート | 企業が一定期間で獲得した顧客(購買活動を行った顧客)のうち既存顧客の割合。どの程度リピーターを維持しているのかを把握できる。既存顧客維持率とも呼ばれる。 計算式:継続顧客数÷新規顧客数×100(%) |
ユニットエコノミクス | 顧客一人あたりの採算性のこと。このまま顧客数を増やすべきか、採算性を高めるべきかの判断に役立つ。 計算式:LTV(顧客生涯価値)÷CAC(顧客獲得単価) |
チャーンレート | 一定期間内のサービスの解約率、退会率。顧客満足度を直接的に推し量ることができる指標。 計算式:解約した顧客数÷期間当初の顧客数×100(%) |
4.3. PDCAサイクルを回す
リテンションマーケティングは一度限りの取り組みでは効果が得られません。施策を実行し、KPIを測定し、分析から改善策を生み出し…と何度もPDCAサイクルを繰り返し回していくことで、継続的に顧客と自社の関係性を維持できます。
何度もアクションを繰り返せるように、費用・スケジュール・人員の配置などで無理をしないことが大切です。また、優れたITツールの導入によりリテンションマーケティングの各種コストを低減する方法も考えられます。
5. IBMがBrazeを活用してCVを最大5倍にアップ
リテンションマーケティングの実例として参考となるのが、アメリカのテクノロジー企業「IBM」です。IBMは、Brazeを活用したリテンションマーケティングにより、特定条件下のコンバージョン率を最大5倍にまで向上させました。
クラウドコンピューティングの分野で成果を挙げる同企業にとって、既存顧客との関係性の維持は必須の課題です。しかし、IBM Cloud には150種類以上の製品・サービスがあり、一社一社異なる顧客体験の完全な把握は難しいのが実情でした。
そこで、Brazeとそのパートナーである「Amplitude」「Segment」を含めた合計3種類のITツールを導入。顧客のセグメント化を進め、それぞれにパーソナライズされたメールを配信できるようになった結果、年間経常収益が80万ドルも向上するなど、確かな成果を手にしています。
IBMが、Brazeを活用したライフサイクルメッセージ配信で コンバージョンを最大5倍にアップ
6. まとめ
この記事では、リテンションマーケティングについて、特徴や重要性、具体的な手法、成功させるために大切なポイントをご紹介しました。
リテンションマーケティングは既存顧客との関係性を維持するためのマーケティング手法であり、新規顧客獲得の難易度やコストが問題となる現代において優れた解決策となる可能性を秘めています。
ぜひ、Brazeが提供するAI機能のひとつ、Predictive Suiteのチャーン予測やイベント予測を活用し、リテンションマーケティングに取り組んでみましょう。