わかるようでしっくりこない言葉「ユーザビリティ」。正しく理解するためには、「有効さ」「効率」「満足度」の3要素が大切です。
この記事では、ユーザビリティの意味や定義、重要性や関連用語との違い、改善のポイントと方法をわかりやすく解説します。
1. ユーザビリティの意味や定義
ユーザビリティ(Usability)とは、日本語で「使いやすさ」「有用性」「操作性の良さ」などを意味する英単語です。転じてWeb業界では、ユーザー視点で見た自社サイトやサービスの使いやすさ、といった意味合いで使用されます。
しかし、使いやすさとは曖昧な言葉です。ユーザビリティが指す「使いやすさ」を理解するためには、ISO(国際標準化機構)やJIS(日本産業規格)の定義が役に立ちます。
1.1. ISO(国際標準化機構)やJISの定義
ISO(国際標準化機構)では、ユーザビリティの定義を「特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザの満足度の度合い(※)」と定め、使いやすさを以下の3つの要素(有効性・効率性・満足度)で説明しています。
【ISO(国際標準化機構)のユーザビリティの3要素】
有効性 | ユーザが指定された目標を達成する上での正確さや完全性 |
効率性 | ユーザが目標を達成する際に、正確さと完全性に費やした資源 |
満足度 | 製品を使用する際の、不快感のなさ、および肯定的な態度 |
※引用:「ISO 9241-11:2018」
また、上記ISOの定義の表現を一部調節し日本版としているのが、以下のJIS(日本産業規格)の定義です。
【JISのユーザビリティの定義】
特定のユーザが特定の利用状況において,システム,製品又はサービスを利用する際に,効果,効率及び満足を伴って特定の目標を達成する度合い |
引用:「JIS Z 8521:2020 人間工学―人とシステムとのインタラクション―ユーザビリティの定義及び概念」
JISの「効果」がISOの「有効さ」に対応しており、意図するところに大きな違いはありません。ISOとJISの定義を踏まえると、ユーザビリティの使いやすさとは「目標が正確に達成できるか(有効さ・効果)」「目標達成にどれだけのコストがかかるか(効率)」「使用中の不快感が少なく快適か(満足度)」の3点からなると説明できます。
1.2. ヤコブ・ニールセン博士の定義
ユーザビリティの「使いやすさ」を知るうえでもう一つ押さえておきたいのが、ヤコブ・ニールセン博士の定義です。Webユーザビリティの第一人者とされるニールセン博士は、ユーザビリティとは以下の5要素からなると説明しています。
【ヤコブ・ニールセン博士のユーザビリティの5要素】
学習しやすさ | システムは、ユーザーがそれを使って作業をすぐ始められるよう、簡単に学習できるようにしなければならない。 |
効率性 | システムは、一度ユーザーがそれについて学習すれば、後は高い生産性を上げられるよう、効率的な使用を可能にすべきである。 |
記憶しやすさ | ユーザーがしばらくつかわなくても、また使うときにすぐ使えるよう覚えやすくしなければならない。 |
エラーの発生率 | システムはエラー発生率を低くし、ユーザーがシステム試用中にエラーを起こしにくく、もしエラーが発生しても簡単に回復できるようにしなければならない。また、致命的なエラーが起こってはいけない。 |
主観的満足度 | システムは、ユーザーが個人的に満足できるよう、また好きになるよう、楽しく利用できるようにしなければならない。 |
出典:ヤコブ・ニールセン博士「ユーザビリティエンジニアリング原論」
ISOとJISの「効率」や「満足度」の部分が噛み砕いて説明されており、実際に自社サイトの改善を進める際の指針となります。ただし、ニールセン博士の定義には「有効さ(目的を達成できるかどうか)」が含まれていないため、別途考慮しておく必要があります。
2. ユーザビリティはなぜ重要?
Webサイトの構築や運営において、ユーザビリティが重要視される理由には以下の3点があります。
- SEO(検索エンジン最適化)として有効
ユーザビリティの高いサイトは、ユーザーの滞在時間が長く再訪も多い、SEOの観点からも優れたサイトになる。検索結果の上位表示に結びつきやすい。
- コンバージョンを獲得しやすくなる
ユーザーが目的に辿り着きやすいことは、ユーザビリティの必須要素の一つ。商品の購入や資料請求などのコンバージョン率も自ずと高くなる。
- ユーザーの顧客満足度が向上しやすい
スムーズに目的を達成できたユーザーはサイトに対して好感を抱く。結果として、顧客満足度の向上や自社ブランドのイメージアップにも繋がる。
特に重要となるのは、顧客満足度の上昇です。ユーザビリティの向上は、ビジネスの成功に欠かせない顧客のリピーター化に向けて、顧客ロイヤルティ(顧客が自社やサービスに抱く愛着)を高めていくことに繋がります。
顧客ロイヤルティの重要性や顧客ロイヤルティを高めることで生まれるメリットについては、以下の記事もご確認ください。
>>顧客ロイヤルティの重要性とは?向上させるメリットや顧客満足度との違いについて解説
3. アクセシビリティやUI/UXとの違い
ユーザビリティと類似した用語に「アクセシビリティ」「UI」「UX」があります。厳密な意味は異なるため、違いを理解しておきましょう。
3.1. アクセシビリティとの違い
アクセシビリティとは「(すべての)ユーザーがサイトやサービスを円滑に利用できるか」を指す用語です。手の届きやすさやアクセスのしやすさを意味する英単語「Accessibility」から来ています。
ユーザビリティとアクセシビリティは、想定するユーザーの多様さに違いがあります。一般的に、ユーザビリティは自社が想定するターゲット層が使いやすいと感じるかを指し、すべての方が使えることは必ずしも考慮しません。
例えば、視覚障害を持つ方が音声読み上げでサイトを利用できるかどうかはアクセシビリティの観点であり、ユーザビリティには含まれないことがあります。
3.2. UIとの違い
WebサイトにおけるUI(User Interface:ユーザーインターフェース)とは、「ユーザーがサイトの利用中に接する要素」のことです。ページの最下部までスクロールできるボタンやサイドバー、文字のフォントサイズやカラーなど、Webデザイン全般が含まれます。
UIは、ユーザビリティを高めるための具体的な手段に当たります。UIが優れているサイトは、前述のユーザー視点での「効率」や「満足度」を満たしやすくなり、ユーザビリティが向上します。
3.3. UXとの違い
UX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)とは、「顧客が自社サイトやサービスを利用して得られる体験」のことです。例えば、「スムーズに目的が達成できて嬉しかった」「使い方がわからずイライラした」など、自社サイト利用時の感情を伴う体験を指します。
UXは、ユーザビリティの高低により変動する結果です。サイトのユーザビリティが優れていればUXは向上し、反対にユーザビリティが劣っていればUXも悪くなります。
ここまでのユーザビリティ・アクセシビリティ・UI・UXの違いをまとめると、以下の通りです。
【ユーザビリティ・アクセシビリティ・UI・UXの違い】
ユーザビリティ | (メインのターゲット層から見た)サイトやサービスの使いやすさ。使いやすさとは「有効さ」「効率」「満足度」の3要素からなる。 |
アクセシビリティ | (すべてのユーザーから見た)サイトやサービスの使いやすさ。 例:障害のある方の利用を支援する機能の有無 |
UI(User Interface) ユーザーインターフェース | ユーザーがサイトやサービス内で触れる要素。ユーザビリティを向上させるための道具。 例:各種ボタン、フォント、メニューバーなど |
UX (User Experience) ユーザーエクスペリエンス | ユーザーがサイトやサービスを利用して得る体験。ユーザビリティの高低により生じる結果。 |
4. ユーザビリティを向上させるためのポイントや注意点
続いて、自社サイトのユーザビリティを向上させるために大切なポイントと注意点をご紹介します。
4.1. ターゲットとなるユーザーを明確にする
前提として、「ユーザビリティが優れたサイト」の姿はターゲットとなるユーザー次第で変わります。
例えば、デジタルネイティブ世代の若者と高齢者では、サイトに求める姿にも差異があって当然です。まずは自社サイトのターゲット像を明確化しましょう。
4.2. サイト内の情報量は適切かどうか
サイト内の情報量は、ターゲットに過不足なく合わせることが大切です。化粧品の紹介サイトを例に挙げると、ターゲットが「扱いやすい化粧品を探して辿り着いた女性」だとすれば、化学反応式や元素記号を深く説明しても響きません。「本製品を使うことで何が得られるのか」「ほかの製品と比べて(ユーザー目線で)何が優れているのか」などを簡潔に説明する必要があるでしょう。
4.3. 基本のフォーマットは揃えているか
サイトの基本フォーマットを統一することも、ユーザビリティの改善において重要です。あるページでは画面左上にトップページへ戻れるボタンがあるのに、ほかのページでは同じ場所に別のボタンを置いているなど、フォーマットが不統一なサイトは、ユーザーの混乱と離脱を引き起こします。文章や画像のトーンまで含めて統一感のある洗練されたサイトを目指しましょう。
4.4. 動作は重くないか・アクセスに時間がかからないか
Webサイトは、動作が軽快であるほどユーザビリティが高くなります。優れたコンテンツを用意しても、ページ移動や読み込みのたびに数十秒も待つようでは、ユーザーは興味を失ってしまうかもしれません。ターゲットのニーズに不要な画像・動画・エフェクトをなくすなど、ページの軽量化を進めましょう。
4.5. ニーズを満たしたコンテンツになっているか
ユーザビリティの向上には、ユーザーの目的を満たすために最適化されたコンテンツの準備が必須です。ISOやJISでいう「有効性」の観点が足りなければ、ほかの部分が優れていてもユーザビリティが高いとはいえません。
前述の化粧品紹介サイトの例でいえば、その場で通販購入できるボタンやECサイトへのリンクを設置するなど、速やかにニーズを解決できるつくりが求められます。
5. ユーザビリティを改善するための方法
自社サイトのユーザビリティを向上させるためには、適切な評価と改善の繰り返しが求められます。ここでは、ユーザビリティの評価に活用できる具体的な方法をご紹介します。
5.1. ユーザビリティテストを行う
ユーザビリティテストとは、サイトをユーザーに試用してもらい、使いやすさを評価する手法です。「定量テスト」と「定性テスト」の2種類に大別できます。
【定量テストと定性テストの違い】
定量テスト | 試用者のパフォーマンスを客観的な数値(例:提示した課題の成功率)で集め、改善の手がかりを探るテスト。 |
定性テスト | リサーチャーの目の前で利用してもらうなど、試用の様子を直接確認し、数値に表れない問題を明確化するテスト。 |
定量テストは「A案よりもB案がコンバージョンに辿り着く人が多い」など、数値で統計的事実を導き出すのに役立ちます。
一方、定性テストは「どんなデザインになったら使いやすいと思いますか?」と試用者に質問するなど、まだサイト案を構築中の場合にも利用できます。
5.2. ヒューリスティック評価を行う
ヒューリスティック評価とは、UIやUXの専門家が自身の経験(ヒューリスティック)によりサイトを評価するテストです。前述のニールセン博士が提案した手法で、ユーザビリティテストのプロ版のようなイメージです。
ユーザビリティテストと比べると、相手がプロであり明確な評価基準を持っている点に強みがあります。実験プランや評価指標をすべて自社で考案する必要がなく、専門家視点でのアドバイスを受けながら進められます。
5.3. アイトラッキング調査を行う
アイトラッキング調査は、ユーザーの目線の動きを確認するリサーチです。ユーザビリティテストの一種で、視線の流れ、留まった場所、見つめていた時間などを分析し、サイトの問題を明らかにします。
近年は、モニターと検出装置が一体となった「頭に何も付けなくても良いアイトラッキング装置」も登場するなど、実施のハードルが下がっています。
5.4. アクセス解析ツールを活用する
既にサイトを運営中の場合、Googleアナリティクスに代表されるアクセス解析ツールの活用により、ユーザビリティテストの定量テストに似たデータが得られます。各ページの滞在時間、直帰率、コンバージョン率などの数値を分析し、ユーザー視点で問題のあるページの改善を進めることが可能です。
5.5. ヒートマップツールを活用する
アクセス解析ツールと同様、ヒートマップツールも既存サイトのユーザビリティ改善に活躍します。ヒートマップツールでは、マウスの動きを測定し、ページ内のどの部分がよく読まれ、クリックされているのかを視覚化できます。アイトラッキング調査に近いデータを得ることが可能です。
まとめ
ユーザビリティとは、ユーザー視点での自社サイトやサービスの使いやすさのことです。コンバージョンの向上や顧客ロイヤルティの強化に繋がる重要な要素として取り扱う必要があります。
自社のサイトのユーザビリティを上げることは、単に売上を上げることだけでなく、未知の顧客も含めた多くの人々からの自社の評価・価値を高める効果も期待できます。この記事を参考に、ぜひユーザビリティの向上に努めましょう。