AIには「弱い」「強い」や「特化型」「汎用型」などの種別があり、その違いの理解は人工知能研究の現在地を探るために役立ちます。
この記事では、弱いAIの特徴や関連分類との違い、具体例やシンギュラリティとの関連性についてご紹介します。
1. AIとは?
AI(Artificial Intelligence:人工知能)とは、「学習や推論の機能により、従来とは一線を画す問題解決能力を持つITツール」といったような意味で使われる言葉です。ただし、実は定義の曖昧な用語でもあり、国や企業、専門家の間でも、その意味は統一されていません。
以下は、代表的な人物や団体によるAIの定義の一例です。
【AIの代表的な定義】
人物・団体 | AIの定義 |
松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科教授) | 人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術 |
総務省 | 人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラム、あるいは人間が知的と感じる情報処理・技術といった広い概念 |
人工知能学会 | 知能のある機械のこと |
コンピュータにさまざまな高度な機能を実行できるようにさせる一連のテクノロジー |
このように、人工的につくられた人間のような知能を指すこともあれば、その関連テクノロジーまでを意味する場合もあります。定義が定まらないのは、議論の過程で「そもそも知能とは?」「感情とは?」などといった別の議題が生まれるためです。
しかし、次の「強いAI」「弱いAI」の概念を知れば、AIのイメージはきっとつかみやすくなります。
2. AIの分類
「強いAI」「弱いAI」とは、元々は1980年ごろにアメリカの哲学者ジョン・R・サール氏が自身の論文『Minds, brains, and programs』の中で提言した思想です。AIを2種類に大別する考え方で、そのわかりやすさから現在でも広くAIの考え方の指標となっています。
2.1. 強いAI
強いAI(strong AI)とは、人間と同等の心や意識を持つAIのことです。サール氏は「機械は思考できるのか?」という問いかけの中で、適切にプログラミングされたコンピュータは人間と同じ心を持つと主張し、これを強いAIと呼びました。
例えば、怒ったり泣いたりできる感情のあるロボットの頭脳が「強いAI」、と考えると理解しやすいかもしれません。
2.2. 弱いAI
弱いAI(“weak” or “cautious” AI)とは、人間のような心や意識を持たないAIのこと、すなわち強いAIに当てはまらない人工知能のことです。2023年現在、ChatGPTなど社会で流行しているAIは、すべてこの「弱いAI」に該当します。対話型チャットボットのような一見感情があるように見える技術も、実際には統計的な推論からそれらしい回答をしているだけです。
ちなみに、Brazeに搭載されているAI画像生成機能も弱いAIに分類されます。
3. AIは「汎用型」と「特化型」にも分けられる
近年、AIには、「強いAI」「弱いAI」の分類とは別に、対応できるタスクの範囲をもとにした「汎用型」「特化型」という括りも登場しています。
3.1. 汎用型AI
汎用型AIとは、人間のように複数ジャンルのタスクに対応できるAIです。例えば「チェスを得意としているが、似たゲームである将棋もチェスの知識を活かして上手にこなせる」といったような、過去の経験から目の前の問題を臨機応変に解決できるAIを指します。
汎用型AIは強いAIと同一視されるケースもありますが、厳密には異なります。汎用型AIの条件には、意識や感情があることは求められていないためです。
3.2. 特化型AI
特化型AIとは、事前に設定された特定ジャンルのタスクにのみ対応できるAIです。例えば「チェスはプロ顔負けだが将棋は一切打てない(駒を進めることさえできない)」といった形で柔軟さがないAIを意味します。
こちらは弱いAIと混同されることがありますが、心や意識を論点としていない点で異なります。
強いAI、弱いAI、汎用型AI、特化型AIの特徴をまとめると以下の通りとなります。
分類 | 特徴 |
強いAI | 人間と同等の心や意識を持つAI |
弱いAI | 人間と同等の心や意識を持たないAI |
汎用型AI | 複数のジャンルのタスクに臨機応変に対応できるAI。心や意識の有無は関係がない |
特化型AI | 事前に設定された特定のタスクにのみ対応できるAI。心や意識の有無は関係がない |
4. 強いAIと弱いAIの違い
強いAIと弱いAIの違いについて、さらに深掘りしていきましょう。両者は大きく4つの点で異なります。
4.1. 機能の範囲
心や意識を持つ強いAIは、人間と同様に多様なタスクで力を発揮します。反面、弱いAIは自分で考えることができないため、事前に準備された特定のジャンルのタスク以外で活躍することは困難です。
4.2. 自己学習能力
機能の範囲に違いがあるのは、主に自己学習能力の差によるものです。強いAIは、過去の経験を新たなタスクに対処する際の手がかりにできます。しかし、弱いAIは自己学習能力を持っておらず、そもそも「自らに学習が必要である」と考えることができません。
ただし最近では、AI自身がデータの重要ポイント(特徴量)を探して学習を自動的に進められる手法「ディープラーニング」が登場しており、この違いは曖昧なものになりつつあります。
4.3. 自己意識
前述の通り、強いAIとは人間の心や自己意識を持つ人工知能を指しています。そして、その心や自己意識は自分で発達する可能性がある(人間が手を加えずとも成長しうる)と考えられています。一方、弱いAIに心や自己意識はありません。
4.4. 柔軟性と応用範囲
ここまでの3つの違いから、強いAIは卓越した柔軟性と応用範囲を持つ一方、弱いAIは限られた範囲で杓子定規な動きをします。
強いAIと弱いAIどちらで優れているかというと、柔軟性や応用範囲が広い「強いAI」と言えますが、現在のAIブームが物語るように、弱いAIであっても、私たちの生活やビジネス環境を変えうる力を秘めています。
5. 強いAIと弱いAIの例
続いて、強いAIと弱いAIの具体例を確認していきましょう。
5.1. 強いAIの例
前述の通り、2023年時点で強いAIはまだ存在しません。映画やアニメ・漫画など、フィクションの世界で登場してくるような、自身で考え行動するロボットが強いAIの例といえます。現状では、今存在しているAIは全て「弱いAI」に分類されているため、今後の科学の発展が期待されます。
5.2. 弱いAIの例
一方で、弱いAIはすでに社会に登場しています。ここでは3つの例をピックアップします。
5.2.1. AlphaGo
AlphaGo(アルファ碁)はGoogle によって開発された囲碁AIです。2015年10月、これまで不可能と思われていた人間のプロ囲碁棋士とのハンデなしの戦いに勝利し、衝撃を与えました。知的遊戯の世界においてAIが人を打ち負かす時代がきたことの象徴的存在です。
AlphaGoは「現時点で打てる手の検索」「現在の盤面の評価」「相手の戦術の予測」と3種類ものAIを並行して駆使し、その強さを実現しています。
5.2.2. Siri
「Hey Siri.○○して」のかけ声でお馴染みの音声アシスタント「Siri」も、身近な弱いAIの一種です。Appleの端末に搭載されているこの機能は、電話をしたりメッセージを送ったりといったデバイスの操作を音声のみで指示できる人工知能です。音声の認識や自然言語の処理、その後のアクションの実行や返答にAIが活用されています。
Siriはその完成度の高さから「強いAIの先駆け的存在(プロトタイプ)ではないか」とする声もありましたが、現時点では弱いAIとみなす考え方が主流です。
5.2.3. レコメンド
近年は、通販サイトやアプリにおけるレコメンド機能にも弱いAIが活用されつつあります。
レコメンドとは、利用者の過去の購買履歴や属性(年齢や性別、家族構成や年収など)、サイト内での行動などを参考に、おすすめの商品やサービスを提案する機能です。
レコメンドは、過去の膨大なデータから「この条件のユーザーはこの商品に興味があるだろう(購買行動を取る確率が高い)」と統計的に推測する行動とも言い換えられます。このようなビッグデータの学習と高精度な推論は、AIがもっとも得意とする作業です。
6. 強いAIが誕生するとシンギュラリティが起こる?
強いAIに関連して、最後にもう一つ押さえておきたい用語に「シンギュラリティ(技術的特異点)」があります。
シンギュラリティとは、AIが人間と同等以上の知能を持つタイミング(強いAIが生まれたタイミング)と、その後に起こる出来事を指す用語です。特に、AIがより賢いAIを自ら製造できるようになり、人間のコントロールが及ばなくなる状況を指します。以下は、シンギュラリティが到来した場合に世の中に起きるといわれている変化の一例です。
多くの仕事がAIに奪われる
人体の臓器や脳の一部をデジタル回路で代替するなどの医療革命が起こる
AIが暴走する(人間の手を離れてしまう)
好影響を語る研究者もいれば警鐘を鳴らす専門家もおり、その影響は現時点ではすべて明らかになっていません。
なお、シンギュラリティの到来時期は、アメリカのAI研究者レイ・カーツワイル氏などにより2045年と予想されており、そのことから「2045年問題」として語られることもあります。
6.1. 「シンギュラリティはこない」とする意見もある
一方、シンギュラリティは必ず到来すると決定したわけではありません。コンピュータ科学の権威であるジェリー・カプラン氏は、人間とロボットの欲求や目標の違いの観点から「シンギュラリティはこない」と断言しています。2045年の到来が予想された根拠の一つである「ムーアの法則(半導体の技術進化のスピードに関する法則)」が崩壊したという声もあり、今後の展開が注目されます。
7. まとめ
この記事では、「弱いAI」について、そもそものAIの定義や「強いAI」との違い、汎用型AI・特化型AIとの差や具体例、シンギュラリティとの関連性についてご紹介しました。
弱いAIとは、人間と同等の心や意識を持たない人工知能を指し、2023年時点で世間に登場しているすべてのAIが該当します。しかし、弱いAIの中にも特定のタスクなら高度に解決できるものも登場しつつあるなど、現在はAI活用の過渡期といえます。
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